本記事では介護職の方に向けて、利用者の方が転倒や転落をしてしまったときに、どのように対処するべきかを詳しく解説していきます。さらに、転倒や転落を防止する方法や注意点などについても詳しく紹介していきます。ぜひ、最後までお読みください。
高齢者は転倒事故が多いです。転倒事故は、職員の目が届かない場所で起こる場合がほとんどです。事業所ごとに、転倒した人を発見したときのマニュアルなどもあるでしょう。しかし、実際に事故が起こってしまったときに、冷静に判断し適切な対応することは難しいです。次からは、転倒発見時の対応を順にみていきます。
まずは、意識の確認を行うため名前を呼びましょう。耳元で大きな声で呼びます。状況にもよりますが、少し肩をたたいて刺激を与えるのも効果的です。高齢者はとくに難聴の人も多いので、はっきりとした声で呼びましょう。転倒した衝撃で混乱していると、こちらの呼びかけに応えられないかもしれません。反応があった場合は、意識レベルの確認とバイタルサインを確認します。呼びかけに反応がないときは、呼吸停止などがあればすぐに救急車を呼びましょう。
転倒直後は、興奮状態で血圧が高く出やすいので、適切な判断が必要です。転倒の際、体温の測定の重要度は低いですが、血圧と同時に測定するとよいでしょう。合わせて脈拍の測定も可能ですが、転倒時は興奮状態になので、脈拍が高い場合も多いです。
転倒時の様子を見ていたのならば、ある程度判断できますが、倒れているところを発見したのであれば、まずは頭部を打っていないか確認しましょう。頭部打撲の場合は、脳のダメージが心配されます。脳のダメージは身体全体に影響を及ぼし、今後の生活に影響が出る場合もあります。最悪の場合、脳内出血で突然死なども考えられます。その他、骨折や裂傷、腫脹などを確認し、出血が多い場合は止血を行いましょう。
転倒事故は、基本的に1人で対応しないことが基本です。周りにいるスタッフに声を掛け、応援要請を行いましょう。複数人なら上記の確認作業を分担して行えるので、迅速な対応が可能です。判断ができない場合や、明らかな外傷、頭部打撲などがあれば、救急要請が必要です。救急要請時は以下の点を伝える必要があります。
【救急要請時の確認事項】
これらは覚えておくか、すぐに確認できる場所に貼っておくなどの工夫をしておきましょう。PHSや固定電話などに貼っておくとよいかもしれません。
転倒時に注意しないといけない点がいくつかあります。
意識の確認をした時に反応があるからといって大丈夫とは限りません。頭部打撲の場合、後から少しずつ脳内で出血が起こり、数時間後に意識を失う場合もあります。また、頭部の障害には、後遺症が残る場合もあるので油断しないようにしましょう。少しでも不安を感じるなら、精密検査を受診しましょう。転倒後、24〜72時間はしっかりと様子を観察しましょう。
転倒を発見した職員がやってしまう行動のひとつですが、すぐに起こそうとするのは、絶対にやめましょう。倒れている人を見ると、まず起こしてしまいたくなりますが、対象者へのリスクがかなり高い行為です。たとえば、転倒により骨折していた場合、慌てて起こしてしまうと、骨折部位がずれてしまう危険があります。ずれた骨がきれいに接合しないと、骨折が治った後も痛みが続いてしまう恐れがあります。
自分のミスで転倒させてしまったが、対象者の意識もあったので、なかったことにしようとする人がいるかもしれません。しかし、転倒の報告が遅れると、大きな後遺症を残す可能性もあります。自己判断せず、必ず報告をするようにしましょう。転倒を起こした事実よりも、対象者の将来が大切です。後悔のない選択をしましょう。
転倒はできる限り防ぎたいですが、100%予防するというのは難しいでしょう。転倒する要因を把握して、繰り返し対策を行い転倒のリスクを減らしていきましょう。ここからは転倒の要因となるものを紹介しています。それぞれの観点から考察していきましょう。
本人の筋力低下や、バランス能力の低下によって転倒は起こります。身体的な要因の場合、改善はなかなか難しいといえるでしょう。また、認知能力の低下により危険予測ができない状況も考えられます。福祉用具の活用や職員の体制の見直しが必要かもしれません。また、後述するリハビリや機能訓練も効果的です。
段差などの障害物があると転倒のリスクが高くなります。高齢者施設の場合、段差や障害物がないように設計されているでしょう。しかし、テレビのコードやベッドの向き、車椅子の位置などに注意しないといけません。車椅子の不具合により、ブレーキがかかりにくいといった場合もあるので、福祉用具の点検も欠かせないでしょう。
転倒を予防していくためには、さまざまな方法が考えられます。主な予防方法は以下の通りです。
転倒の要因を予測することで、転倒予防対策が図れます。しかし、対策を行ったら終わりではなく、定期的に検証・改善を実施して、評価することが大切です。とくに、実際に転倒が起こってしまった場合の事故報告書ではしっかりと対策を立てましょう。次の事故を防ぐための事故対策なので「見守りの強化」「しっかりと確認する」のような抽象的な表現ではなく「〇〇なので、△△の対応を行う」といった誰が見ても行動に起こしやすい対策を立てるように心掛けましょう。
高齢者自身の身体機能の向上を目指し、リハビリや機能訓練を実施するのも効果的です。歩く練習や集団体操などを実施するのもよいでしょう。時間がない、人手が足りないと考える人もいますが、体操だけなら職員1人でも複数人に対して実施できます。まずは、毎日のラジオ体操を実施してみてはいかがでしょう。個別の運動やリハビリは、対象者の課題を解決させるのに効果的です。専門職と相談して、実施していくとよいでしょう。
高齢者には心理的に不安定な状態の方もいます。病気や不安から、心理的に落ち着かない状態になる人や、焦燥感にかられてしまう人もいるでしょう。そのため、まずは安心して過ごすことができる環境づくりが大切です。落ち着ける環境があれば、急いで行動する人も減ってくるはずです。落ち着かない環境は、職員が慌ただしく行動していることが影響している場合が多いです。職員が落ち着いて行動できているか検証してみるとよいでしょう。
ヒヤリハットは事故につながりそうな事例を報告する書類ですが、ヒヤリハットを分析すると、骨折などを含む重大事故を予防できます。1件の重大事故には、29件の中程度の事故があり、さらに300件のヒヤリハットがあるといわれています。ひとつひとつのヒヤリハットの事例にしっかりと対策を行い、実行していくと結果的に重大事故が減らせます。まずは、ヒヤリハットの件数を増やし、対策を立ててひとつずつリスクを減らしていきましょう。
転倒してほしくないという気持ちが先行しすぎると、介護のやり方が変わってしまう場合があります。たとえば、以下のような場面が想定されます。
このような対応は転倒予防のつもりでも、身体拘束にあたる可能性があります。転倒してほしくない気持ちが行き過ぎてしまうと、身体拘束に繋がってしまうので注意が必要です。
転倒は100%防ぐことはできないのが現実です。しかし、検証と対策を繰り返していくことで、転倒事故は減らすことができます。もし、転倒が起きてしまった場合は、落ち着いて適切な対応を行う必要があります。
転倒してしまった人は興奮状態にあるので、職員も一緒に興奮して慌ててしまうと、正しい判断ができません。介護士は転倒という非常時こそ、冷静に行動できるようにならなくてはいけません。安易な対応は、転倒事故の再発や、身体拘束につながりかねないので注意しましょう。そのためにも日頃からリスク要因に気を配り、環境を整えていくことを心掛けましょう。
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