混合介護とは介護保険が適用される「介護保険サービス」と、全額自己負担の「介護保険外サービス」を合わせた介護サービスのことです。
混合介護は介護の現場で働く方にとって、注目してほしい新しい介護のかたちです。
今回は混合介護のメリットやデメリットについて分かりやすく解説し、今後の課題についても紹介していきます。
「混合介護」は介護保険適用内(費用は一部負担)の介護サービスと、介護保険適用外(費用は全額負担)のサービスを組み合わせて利用する介護サービスです。
利用者自身が自由に組み立てるサービスとして、近年注目を集めています。
保険内サービスは、利用料の1割~3割を利用者の方が自己負担します。
負担額は利用者本人と同じ世帯にいる65歳以上の方の所得に応じて決定されます。
サービス内容は下記のように分類されます。
食事・入浴・排泄・衣類の着脱・体位変換・歩行介助・移乗介助など
掃除・選択・調理・ベッドメイク・衣類の整理・買い物・薬の受け取りなど
保険外サービスは、利用者の方が利用料を全額負担します。
保険内サービスが介護認定を受けている高齢者が対象であるのに対し、保険外サービスはだれでも利用できるのが特徴です。
保険外サービスを実施しているのは、市区町村が実施する支援サービスや民間企業など幅広く、利用方法や費用もそれぞれ異なります。
サービスの内容も多岐にわたり、以下がその一例となります。
前述したように、混合介護はそれぞれのサービスを組み合わせて利用する介護サービスです。
しかし、現行のルールでは介護保険内と介護保険外のサービスを「同時・一体的」に利用できません。
例として保険内サービスの「掃除」と、保険外サービスの「草むしり」を利用するケースで確認してみましょう。
この場合、ヘルパーは掃除の合間やその後に続けて草むしりすることはできません。
一度事業所へ戻ってから再度利用者宅を訪れるか、別のヘルパーが草むしりのために利用者宅を訪れる必要があるのです。
これでは非効率なだけでなく、利用者自身の利便性も損なわれてしまいます。
どこまでが「同時・一体的」であるかの判断は各市町村に任されており、グレーゾーンが多いのも実情です。
2018年9月、厚生労働省は混合介護のルールを改めて整理。
通所介護と訪問介護における以下のルールを、各都道府県に通知しました。
介護保険適用外のサービスを、保険内のサービス利用前後、あるいは合間に提供できる。
(※同時に行うのは不可)
このルールにより、今まで一度事業所に戻っていたヘルパーも続けて保険外のサービスを提供できるようになりました。
しかし、あくまでも保険内サービスの「前後」や「合間」であり、同時に行うことは不可となっています。
通所介護では、以前から保険外サービスとして理美容サービスや併設する医療機関の受診が設けられていました。
2018年の通知では、新たに以下のサービスが保険外サービスとして明記されています。
個別の同行支援に従事する職員は、その時間帯は通所介護に従事していないものとみなされます。
そのため保険外の同行支援サービスを提供する場合は、通所介護事業所の人員配置基準が満たされるよう留意しなければなりません。
また医療機関への受診同行は、健康保険法の趣旨を踏まえ、あくまでも利用者個別のニーズに沿って行うものと明記されています。
つまり、複数の利用者の医療同行を一度に行うことはできません。
また不要なサービスが提供されないよう、認知機能が低下している利用者の方に対し高額商品を販売しないことも留意事項のひとつ。
高額商品を販売する場合は、あらかじめ利用者の家族やケアマネージャーへの連絡が必要となっています。
混合介護の可能性を求め、豊島区が新たに取り組んだのが「選択的介護」構想です。
豊島区では、2018年4月から以下の2点が可能となっています。
(1)によって可能となったのが、保険内サービスに入ったヘルパーの切れ目のない保険外サービスの提供。
「清掃の合間の庭の手入れ」、「利用者の方と家族の食事を同時に調理」といった、効率的かつ安心安全につながるサービスが実現したのです。
また、(2)によって医療や健康に関する資格や、コミュニケーションスキルを兼ね備えたヘルパーへ指名料の上乗せを実施。
利用者の方はより質の良いサービスが受けられると同時に、ヘルパーはスキルに応じた処遇改善が期待できるようになりました。
これらの混合介護を推進するため、豊島区では利用者保護の観点に基づく独自の実施ルールがあります。
利用者の方が不当な費用を払うことがないよう、署名契約やサービス内容の記録をサービス提供事業者に義務付けています。
また、ケアプランにも保険外サービスの記載を義務化することで、ケアマネージャーがサービスに介する機会を確保。
サービスを提供する事業者には、区主催の「選択的介護実務者研修」を実施しています。
これらのルールのもと、区と協定を結んだ事業者は19年10月時点で11社。利用者は30件を超え、19年度に新たに追加した「令和元年度モデル」では、デイサービスや居宅介護の利用者の方に対する保険外サービスを提供しています。
豊島区のこれらの取り組みは新しい介護モデルのひとつとして、今後他の市区町村から高く注視されることになるでしょう。
新たな介護サービスとして注目されている混合介護。
混合介護の緩和は、介護士と利用者双方に以下のようなメリットとデメリットをもたらすと考えられています。
事業者に支払われる介護報酬は、介護保険によって基準額が定められています。
全額利用者負担の介護保険外サービスを提供すれば事業者の収益はアップし、職員の処遇改善も期待されます。
介護保険内サービスは、あくまで利用者本人に向けて提供されるものです。
「利用者の居室以外の掃除」「同居家族の調理」といった保険外サービスが可能になれば、介護者の負担はより軽減されることになるでしょう。
介護保険内のサービスでは、日用品の買い物しかヘルパーは同行できません。
しかし、介護保険外のサービスでは、趣味嗜好品の購入や、希望する場所への同行が可能となります。
高齢者が安心安全に移動できるようになり、生活の質はより向上すると考えられるでしょう。
保険外サービスは全額自己負担となるため、サービスを利用するほど利用者の負担は大きくなると考えられます。
金銭的な問題でサービスを受けられないという不公平感も生まれると考えられます。
混合介護の緩和に向けた通知には、介護保険適用外サービスの内容をケアプランに記載するように明記されています。
そのため、混合介護が緩和されるとケアマネージャーの負担が増加することが懸念されています。
費用の面で利用できないサービスがあることは、高齢者福祉の公平性に反するのではという声もあがっています。
不必要で高価なサービスを押し付ける事業者が現れるケースも、考えられるデメリットのひとつです。
さまざまな介護サービスを組み合わせる混合介護には、利用者のニーズにそったきめ細やかな対応が期待されています。
しかし、メリットとともにデメリットがあるように、いくつか課題があることも実状です。
民間企業が主体となる混合介護では、保険外サービスの費用や内容を巡り、トラブルが生まれることも少なくありません。
利用者保護の観点から考えると、豊島区モデルの実例のように、公的な認定を受けた事業者の参加が必要だと考えられます。
厚生労働省の調査によると、ケアマネージャー資格の受験者は横ばいから減少の傾向にあります。
介護業界が人手不足であるように、ケアマネージャーもまた、なり手不足が問題のひとつとなっているのです。
人員不足に拍車をかけないためにも、混合介護の緩和にはケアマネージャーの負担軽減策が必要となるでしょう。
【参考】厚生労働省「第22回介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況について」
高齢者が必要とする介護サービスは、健康状態や生活環境によってさまざまに異なります。
混合介護はそれらのニーズを満たし、高齢者の生活をより豊かにするためのサービスです。
しかし福祉の公共性や費用、ケアマネージャーの負担など解決するべき課題があるのもまた事実。
介護サービスの質の向上のためにも、混合介護の今後の広がりと可能性について注視していきましょう。
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