「トランス」とは、ベッドから車いすなどへの「移乗動作」を指す介護用語です。
トランスとは「トランスファー」の略で、「移動・乗り換え」という意味を持ちます。
本記事では、介護におけるトランスについて解説。さらに、介護現場で役立つトランス介助の方法や注意点も詳しく紹介していきます。
「トランス」は、「トランスファー(transfer)」を略した言葉です。
介護の現場では、ベッドから車いすへの移乗・乗り換えといった移乗動作を意味します。
介護でトランス介助が必要なシーンはさまざま。
特に、利用者の方が車いすを利用している場合には、1日に何度もトランスが必要になります。
移乗動作は転倒リスクも高く、事故を防ぐためには介助方法をしっかりと身につけておくことが大切。
基本を実行すれば、少ない力でスムーズなトランス介助が可能です。
結果、トランス介助される利用者の方の、負担軽減にもつながるのです。
トランス介助には安全確認や声かけなど、身体介護の基本がつまっています。
介護の仕事をする上で、ぜひ身につけておきたい技術のひとつと言えるでしょう。
トランス介助がもっとも必要になるのが、ベッドから車いすへの移乗。
介護場面を思い浮かべながら、ひとつずつ手順を追っていきましょう。
利用者の方が乗り移るための車いすを準備します。
転倒事故を防止するため、ブレーキやフットレスト、アームサポートに異常がないか確認します。
車いすの安全確認は1日に1度すれば良いというわけではなく、トランスのたびに行います。
思わぬ故障が事故へとつながるため、忙しいときでも安全確認は忘れないようにしましょう。
安全確認をした車いすをベッドへ近づけます。
このとき、注意したいのが車いすを置く場所。
片側に麻痺のある方の場合、車いすは麻痺のない側につけるのが原則です。
さらに、車いすとベッドが30℃の角度になるように近づけると、トランスがスムーズに行えます。
全介助の方の場合は角度にはこだわらず、極力ベッドに車いすを近づけるよう意識しましょう。
安全に移乗するためには、利用者の方が立ちあがりやすい座位を整える必要があります。
まず、利用者の方の身体を支えながら、つま先が床につくまでベッドの高さを調節。
次に、肩甲骨のあたりを支え、身体を密着させます。
利用者の方の臀部を左右に浮かせながら、徐々に身体を前へと引き出しましょう。
ちょうど良いのは、利用者の方の太ももの中心が、ベッドの端へ来る位置。浅く座りすぎるとベッドからずり落ちる可能性があるため注意しましょう。
利用者の方が倒れないよう注意しながら、車いすを微調整します。
可能であれば、利用者の方にベッドのサイドバーを持ってもらうと安心です。
座面と利用者の方の間に、こぶし1個分のスペースが開く位置がちょうどよい場所。
車いすのブレーキがかかっているか、再度しっかりと確認しましょう。
利用者の方の手を、介助者の肩にまわしてもらいます。
介助者は、利用者の方の肩甲骨と骨盤を支えるかたちで身体を密着させましょう。
このとき、介助者は足を広げるのがポイント。
足の位置は、利用者の方の軸足と車いすの延長線上に置くよう意識します。
ひざを曲げ重心を低くたもつと、トランスがよりスムーズに行えます。
利用者の方に声かけをしながら、タイミングを合わせて移乗します。
まずは前傾姿勢を取ってもらい、「1、2の3で動きますよ」など声かけを行いましょう。
移乗は利用者の方の身体を持ち上げるのではなく、一緒に車いす側へ回転するイメージです。
少ない力でトランスできるため、介助する側、される側の負担を軽減できます。
かかとが浮かない程度に利用者の方の足を引き、前傾姿勢を促します。
前方に誘導することで臀部が浮き、後ろへと深く座ることが可能です。
姿勢が安定していれば、左右に体が傾かず、顔が真っすぐ前を向いた状態になります。
片麻痺があり身体が傾いてしまう場合には、クッションの使用がおすすめ。
背中やひじの部分にクッションをあて、安定した姿勢が維持できるようにフォローしましょう。
トランス介助に慣れないうちは、力にまかせて間違った方法をとってしまうこともあります。
転倒事故を発生させないためには、NGを把握しておくことも大切。
ここでは、トランス介助における3つのNG例についてみていきましょう。
利用者の方の座位を整える際、つま先が床につくようにベッドの高さを調整するのは前述しました。
しかし、この時にベッドを下げすぎると、立ち上がりづらくなります。
立ち上がりやすいのは、臀部が膝よりも少し上にある高さ。
足裏が床にしっかりついてしまうと立ち上がるのに踏ん張る力が必要になるので、ベッドの位置は下げすぎないよう注意しましょう。
移乗の際、利用者の方のズボンを持って持ち上げるのはトランス介助としてNGです。
力で持ち上げる行為は、利用者の方の大きな負担となります。
少ない力でトランス介助を行うためには、重心を低くたもつことが大切。
身体を持ち上げるのではなく、平行移動するイメージで行いましょう。
同様に、力にまかせて利用者の方をドスンと車いすへおろすのもNG。
衝撃で利用者の方に痛みを与える危険があるため注意しましょう。
トランスは、利用者の方と息を合わせて行う必要があります。
安全なトランスのためにも、介助者のペースで力にまかせて行ってはいけません。利用者の方の思わぬ動作が、事故へつながる可能性もあります。すべての介助は、利用者の方の同意を得た上で、ゆっくりと行うよう心がけましょう。
トランス介助のNG例を把握したら、次の3つのポイントを意識して実際に介助を行ってみましょう。
ひとつひとつのポイントを確認しながら落ち着いて介助することが、より良い介護サービスへとつながりますよ。
トランス介助で欠かすことができないのが、「ボディメカニクス」の活用です。ボディメカニククスとは、人間が動作するときの、筋肉や関節の力学的関係の活用法。
ボディメカニクスを理解すれば余分な力をかけず、最小限の力で介助できます。ボディメカニクスに基づいたトランス介助は、足を肩幅に開き重心を落とした姿勢が基本。
介助者と要介助者はお互いに身体を密着させ、常に平行移動を心掛けます。
ボディメカニクスを意識したトランス介助ができれば、介助者の腰痛予防にもつながります。
家族を介護する在宅介護の現場でも、ボディメカニクスは役立つと言われています。
より良い介護のためには、まずは介助者が健康であることが大切です。
身体的負担の大きいトランス介助の基本として、ボディメカニクスは常に頭に入れておきましょう。
トランス介助というと、介助動作ばかりに気を取られてしまいがちです。
しかし、転倒予防のためには車いすの安全確認も忘れていけません。
介助を行う前には、必ずブレーキやフットレストに異常がないか確認しましょう。
そのうえで、トランスの前にもう一度、ブレーキがきちんとかかっているか再確認する事が大切。
毎日行うトランス介助こそ、慣れることなく、基本動作を心掛ける姿勢が求められます。
トランス介助は、利用者の方とタイミングを合わせることで、スムーズな移乗が可能となります。
そのためには、「こちらに向かって移動しますよ」「声をかけたら動きますよ」といった声かけが大切。
またトランス介助に限らず、全ての介助は利用者さんの同意を得て行うことが基本です。
「これから起き上がって車いすに移りましょう」「浅く座りますよ」「フットレストに足を乗せましょう」など、ひとつひとつの動作の前に声かけを忘れないようにしましょう。
忙しい介護現場ではついつい忘れがちですが、利用者の方へ配慮する心が大切です。
ベッドから車いすへの移乗、車いすからトイレや椅子への移乗を意味する「トランス」。トランス介助は、利用者の方の生活を支える大きな役割を担っています。
例えば、身体の不自由な方であっても、ベッドから車いすへの移乗が可能になれば生活範囲が広がります。
車いすからトイレへと移乗できれば、オムツの利用頻度を減らすこともできるでしょう。
寝たきりの状態を作らないためにも、トランスは最も重要であり基本となる介護技術なのです。
介護は利用者の方の自立した生活を支援するためのものです。
トランス介助は正しく行えば利用者の方の起き上がりや移動を促し、自立支援の点で大きなメリットがあると言えます。
そのためにも、トランス介助は利用者の方の残された力を引き出し、サポートしながら行うように心がけましょう。
トランス介助の前には、事前に流れをイメージしておくことが大切です。
さらに、転倒事故防止のためにも、車いすの安全確認を怠らないようにしましょう。
利用者の方の活動範囲を広げるトランスは、自立支援の面でも大きなメリットのある介助。
スムーズに行えば、介助者と要介助者それぞれの負担を軽減できます。
ひとつひとつに動作に対する声かけを忘れず、安心で安全なトランス介助を行っていきましょう。
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