「バイスティックの7原則」とは、アメリカの社会福祉学者バイスティックが定義したケースワークの基本姿勢であり、近年では介護業界でも注目されています。
そこで、本記事では介護におけるバイスティックの7原則の考え方について詳しく紹介。
さらに、介護職員と利用者の方の援助関係における本質や、ニーズについても解説していきます。
バイスティックの7原則は、対人援助の基本と言われています。
介護職だけでなく、保育や医療、介護や教師といった、人との関わり合いを重視する仕事で注目されています。
人との信頼関係を構築する基礎であり、介護福祉士の国家試験でもたびたび出題されています。
介護職は、職員と利用者の方との信頼関係をもとに、介護サービスを提供する仕事です。
仕事をするなかで、利用者の方やご家族との関係構築に悩むことも少なくありません。
そんなときに役立つのが、バイスティックの7原則。
基本的原則に立ち返ることで、問題点を洗い出し、改善できると考えられています。
また、介護職はチームで進めていく仕事。
利用者の方だけでなく、職場の人間関係構築にも、バイスティックの7原則は役立つのです。
「職場の対人関係で悩んでいる」「コミュニケーションがうまくいかない」というときには、一度バイスティックの7原則をチェックしてみるのもおすすめです。
バイスティックの7原則では、援助する側を援助者(ワーカー)、援助を受ける側を利用者(クライアント)と表現しています。
ここでは、介護現場の職員と利用者の方の関係をもとに、バイスティックの7原則の考え方を確認していきましょう。
人が抱える悩みや課題は、それぞれに異なりますよね。
同様に、利用者の方が抱える問題に同じものは存在しないという考え方が「個別化」です。
個別化の意識を持つことで、利用者の方やご家族、それぞれの問題を自分の枠にはめることなく、客観的にとらえる姿勢を養えるようになります。
利用者の方の感情表現の自由を認める考え方です。
特に、怒りや悲しみといった否定的な感情は、利用者の方の心の内を理解するヒントです。
利用者の方が何に悩み、不満を抱えているのかを知ることが、介護ニーズの発見へとつながります。
そのためには、利用者の方と対面する職員自身が、感情表現を工夫することも必要。
自分自身の悩みや不安、喜びについて語ることが、利用者の方の心を開くきっかけになることもあるでしょう。
利用者の方やご家族と対話するなかで、悲しみや怒りの感情に飲み込まれそうになったことはないでしょうか。
「統制された情緒関与」は、そのようなときも自らの感情をコントロールし、冷静に対応する姿勢を意味します。
利用者の方との信頼関係を築くためには「共感してほしい」という気持ちに応えることも大切です。
しかし、その感情に引きずられてしまうと、本人のために本当に必要な援助を見出せなくなってしまいます。
利用者の方と会話するときには、「援助者」であるという自分の立場を忘れず、感情をコントロールする姿勢を意識するようにしましょう。
利用者の方には、「ありのままの自分を受け止めてほしい」という感情があります。
「受容」は、利用者の方が持つ感情を否定せずに受け止め、理解するという考え方。
例え自分と異なる考え方であっても、否定せず受け止める姿勢を意味します。
ただし、非人道的行為や自傷他害の恐れがある行動には注意が必要です。
すべてを許容したり、容認する方が良いわけではありません。
問題があると判断される場合には「なぜそのような考え方になるのか」を考え、必要に応じた援助をとるように心がけましょう
利用者の方は「ありのままの自分を受け止めてほしい」と思うと同時に、「一方的に非難されたくない」という気持ちがあります。
介護の職員はあくまでも「援助者」であり、善悪を判断する立場ではありません。
そのため、利用者の方の善悪を決めつけない「非審判的態度」が求められます。
利用者の方が、ほかの方や自分自身に害を与える恐れのある行動をとった場合も、一方的に非難するだけではいけません。
なぜそのような行動をとったのか、その行動の裏にある感情は何なのかを知ることが、援助者として求められます。
決して命令したり指導するのではなく、援助者として利用者の方に必要な行動を伝えるようにしましょう。
人は誰もが「自分のことは自分で決めたい」という希望を抱えています。
身体的、精神的に不自由で介護が必要な方であっても、それは例外ではありません。
そのため、援助者は常に利用者の方の自己決定を優先する必要があります。
また、自己決定を促すための環境づくりも大切です。
自分で何かを判断するためには、一定の情報や助言が必要です。
それらをサポートするのが、援助者としての役割です。
命令や指示を出すのではなく、利用者の方の自己決定をサポートする立場であることを常に自覚しておきましょう。
利用者の方の個人情報やプライバシーは、絶対に他人にもらさないという考え方です。
「社会福祉及び介護福祉士法」でも、秘密保持義務が定められています。
介護士は利用者の方やご家族と密接に関わるため、個人情報を多く知る立場にあります。
信頼関係を築くためにも、秘密保持は介護職の原則です。
「この人は秘密を守ってくれる」と信頼してもらえれば、利用者の方の不満や不安もとらえやすくなります。
そのためにも、利用者の方の前で他の人の話や噂話はつつしむようにしましょう。
前述したバイスティックの7原則の本質は、利用者の方が求める7つの基本的ニーズから生まれています。
さらに、援助者(ワーカー)が利用者(クライエント)のニーズを強く意識することで、以下の3つの方向性を持つ相互作業が生まれると考えられます。
方向1. 利用者(クライエント)のニーズ
方向2. 援助者(ワーカー)の反応
方向3. 利用者(クライエント)の気づき
これらは援助過程全体をとおし、互いに響き合うように関連しながら進むのが特徴です。
特に、介護現場では「言葉」だけではない、非言語的コミュニケーションを意識することが大切です。
相互作用の方向のひとつとしてあげられるのが「利用者のニーズ」です。
職員は、第一にこれを強く意識し、援助にあたる必要があります。
バイスティックの七原則 | 利用者の方のニーズ |
個別化 | ひとりの個人として迎えられたい |
意図された感情表現 | 感情表現して開放されたい |
統制された情緒関与 | 共感的な反応を得たい |
受容 | 価値ある人間として受け止められたい |
非審判的態度 | 一方的に非難されたくない |
自己決定 | 問題解決を自分で選択し決定したい |
秘密保持 | 自分の秘密をきちんと守りたい |
第2の方向を持つ相互作用は、ニーズを感じ取った職員から利用者の方へと向けられるものです。
これらの相互作用は、利用者の方をひとりの個人として捉え、その希望を受け止める用意があることを意味します。
この相互作用は、「自分を受け入れてもらえた。受け止めてもらえた」という安心感を、利用者の方に与えます。
その感情は信頼関係の一歩であり、対人援助の基本となることを心に留めておきましょう。
第3の方向をもつ相互作用は、利用者の方から職員へと向けられるものです。
職員が示した態度へ気付き、その気付きを何らかの方法で示そうとする行為で現れます。
それらは言葉で表現されるとは限りません。
利用者の方の行動や態度が変わるといった、非言語的なコミュニケーションで現れる場合もあります。
それを捉えることが介護職員として求められる態度であり、より良いコミュニケーションの第一歩です。
利用者の方の潜在的なニーズを捉え、職員が「あなたを受け止める」という態度を示し、利用者の方が呼応する。
それぞれの方向性を持つこれらの相互作用が響き合いながら、対人援助は進んで行きます。
前述したように、バイスティックの7原則は、それぞれの相互作用が働くことで対人関係に良い効果をもたらします。
これは利用者の方との関係だけでなく、職場の人間関係にもおおいに役立つものです。
令和元年度の調査によると、介護職を辞めた理由の上位にあげられるのが「職場の人間関係に問題があったため」。
チームで仕事を行う介護職では、同僚や上司、後輩との人間関係が大きく影響します。
職場の人間関係に悩んだときには、バイスティックの7原則の基本である「相手のニーズ」を理解するよう努めてみましょう。
相手のニーズを理解するということは、相手に興味を示すということ。頭から意見を否定せず受け止めようという姿勢は、相手の行動に変化をもたらすと考えられます。
感情に流されず冷静に対応する態度を持てば、職場のチームワークも一歩前進することでしょう。
【参考】介護労働安定センター「令和元年度 介護労働の現状について」
バイスティックの7原則は、対人援助である介護職の基本です。
利用者の方の尊厳を守りながら自立した生活を支援するためには、信頼関係が必要。
利用者の方のニーズに耳を傾け適切な対応をとれば、より良いコミュニケーションが生まれます。
介護スタッフとして、バイスティックの7原則を日頃から意識し、より良い介護サービスを提供していきましょう。
(c) 2025 LIKE Staffing, Inc.