介護記録は、介護の仕事をする上で欠かすことのできない業務です。
では介護記録の目的は何なのでしょうか?
今回は、介護記録の目的についてわかりやすく解説していきます。
また、書き方のポイントや具体例も合わせて紹介します。
まずは、介護記録の5つの目的について確認していきましょう。
介護はチームワークが大切な仕事です。ケアの目的や利用者の方の変化について、共通認識を持つ必要があります。
毎日のケアは固定化されたものではなく、その時々に応じたベストな方法があるからです。
しかし一人ひとりの細かな変化について、口頭でスタッフ全員が情報共有するのは困難です。
介護記録があれば、スタッフ同士が顔を合わせなくても同じ情報を確認することが可能です。
より良い介護サービスを提供するためには、利用者の方と信頼関係を築く必要があります。
信頼関係の軸となるのは、適切なコミュニケーションです。
介護記録があれば、毎日顔を合わせることのない利用者の方でも、日々の様子を確認できます。
施設での様子や体調の変化に触れることは、利用者の方との会話のきっかけとなるでしょう。
また、利用者の方にとっては自分のことを把握してくれているという、安心感にもつながります。
介護記録には提供した介護サービスの内容が記載されています。
記録をたどれば、サービスの課題や問題点を振り返ることが可能です。
現在の介護サービスが利用者の方に適しているのか、ケアマネジャーや医師と検討する際にも役立ちます。
結果、介護の専門性が増し、より良いサービスの提供につながると考えられます。
転倒や誤嚥(ごえん)といったトラブルも、客観的な事実を正しく記すことが重要です。
なぜ事故が起こったのか、どうすれば防ぐことができたのかを振り返る際に必要になります。
また、事故やケガは後々訴訟へと発展する可能性もあります。
そのような場合にも、事故当時のスタッフの対応が適切であったのか、第三者へ示すことが可能です。
介護サービスは、ケアマネジャー(介護支援専門員)が作成したケアプランをもとに提供されます。
ケアプランは、利用者の方に必要な介護サービスを記載した計画書のことです。介護サービスは、一人ひとりの身体状況や環境に基づき決定されるため、内容は定期的に見直さなくてはいけません。
介護記録は、そのための大切な情報源となっているのです。
介護記録の作成には、おさせておきたい4つのポイントがあります。
それぞれの内容についてチェックしていきましょう。
介護記録は、スタッフの主観ではなく客観的な事実を記録するものです。
第三者が読んだときに、正しい情報が伝わることが重要です。
検討が必要だと思われる課題は、あくまでも事実の後に書き入れることもポイント。
スタッフ間でどのように対応したのかも、端的に記録しておきましょう。
利用者の方やご家族から求められた場合には、介護記録を開示する必要があります。
そのため、介護記録は日頃からわかりやすい言葉を使用することが大切です。
専門用語は控え、誰が読んでも状況が伝わる文章を心がけましょう。
「5W1H」は、介護記録を書くときに意識したいポイントです
5W1Hを意識して記録すると、誰が読んでも分かりやすい記録になります。
特に、処置や体調の変化には明確な時刻を記録しましょう。
「なぜ」の項目では、スタッフの主観が入りがちなため注意が必要です。
「楽しそうに過ごされた」「悲しい気持ちになったようだ」などは、本来の意思とは違う可能性もあります。
自分でも気付かぬうちに主観に偏った記録になっていないか、日頃から5W1Hを確認しておきましょう。
文章のスタイルは、「です」「ます」ではなく、「~だ」「である」といった文体ではっきりと主張しましょう。
例えば、「体調が良くなさそうだったので、血圧を計りました」より、「だるいと訴えがあり血圧を測定した」のほうが、内容ははっきりと伝わります。
どのような場面も、端的に分かりやすい文章で伝えることが大切です。
介護記録の目的やポイントをふまえたら、具体的な書き方をマスターしていきましょう。
ここでは、NG例も合わせ4つのシーンに応じた記録を紹介します。
転倒や誤嚥などのトラブルは、時刻や場所、発見時の状況やその後の処置を、時系列にそって記入します。
客観的に事実を記載することで、その後訴訟などに発展した際も、当時の対応を明示できます。
利用者 80代女性
場所 居室(老人保健施設)
時刻 13:30
内容 居室を訪問したスタッフが、ベッド脇に座り込んでいる利用者を発見
・訪室時に転倒を発見したが、異常はなかった。
13:30 昼食前の声掛けに居室を訪問したところ、ベッド脇に座り込んでいた。「大丈夫ですか」という声をかけに、「たぶん、なんともないと思う」と回答あり。
介助で立ち上がり、ベッドに腰掛ける。あざや発赤は見られない。
痛みの訴えもなし。
「トイレに行こうと思ったらふらついた」とのこと。
その後、手を引いてトイレまで誘導する。
パット内に少量失禁あり。
歩行状態についてリハビリスタッフと検討の必要あり。
リーダーへ相談、報告する。
食事は、日々の体調変化のバロメーターとなるものです。
異変があった場合には、なるべく細かく情報を記載しましょう。
食べ方や食べ物の形状などを記すことで、なぜそのような変化が起きたのかを振り返り、対応を検討できます。
利用者 70歳男性・右半身麻痺あり
場所 食堂(有料老人ホーム)
時刻 昼食時
内容 野菜の煮物を介助にて完食する
・あまり食欲がない様子で、おかずは一部介助にて完食した。
スプーンを持ちいつものように食事をとるが、副菜である野菜の煮物のみ半分ほど残す。
「おかずは食べられませんか?」と声をかけ小皿を手に取ると、スプーンを使い口に運んだ。
おかゆやゼリーは完食。
食後は「おいしかった」と言われる。
調理形態が食べづらかったのではと思われる。
ケアマネジャーや栄養士と、今後検討の余地あり。
レクリエーションの記録は、「楽しそうだった」「気に入らなかった様子」などとスタッフの主観が入りがちです。
利用者の方が楽しそうだと感じた場合は、その根拠となる情報を詳しく記載しましょう。
利用者 70代男性
場所 共有ホール(デイサービス)
時刻 14:00
内容 書道講師が訪問したレクリエーションに参加する
・意欲的に書道レクリエーションに参加していた。
「今日のレクリエーションには、書道の先生がいらっしゃいます」と告げると、「若い頃に習っていた経験がある。参加したい」とお答えになる。
他5名の利用者の方とともに参加。
手本を参考に5枚ほど書き上げる。
「久しぶりに筆をとった」「練習しないとうまくならないなぁ」など、他の利用者の方や講師と談笑される。
「次は自分の道具を持ってきてもいいですか?」と次回も参加希望あり。
利用者の方が眠っている夜間時の記録は、「良眠」「安眠」といった言葉だけで完了しないことがポイントです。
5W1Hを意識し、いつどのように眠っていたのかを客観的に記載しましょう。
利用者 70代男性
場所 居室(グループホーム)
時刻 21:00~6:30
内容 夜間から朝まで起きることなく就寝される
・朝まで起きることなく安眠された。
21:00訪室。いびきをかきながら目をつむっている。
23:00頃、再び見回りに訪室すると、寝返りをうち体位が変わっていた。
6:30に起き上がりを介助する。
「久しぶりにぐっすり眠れた気がする」と話される。
多くの業務が重なる介護現場では、介護記録が負担になるケースも見受けられます。
記録作業で残業が必要になる場合もあるでしょう。
介護記録を効率的に書くためには、以下のようなテンプレートの活用もおすすめです。
【食事記録のテンプレート】
【トイレ誘導記録のテンプレート】
また、効率的かつ正確に介護記録を書くために、普段からメモを取ることもポイントです。
介護記録に残す必要があると思われることがあれば、ケアが終わったあとにメモを残しておきましょう。
さらに、最近ではICTの導入によって効率化をはかる事業所も増えています。
タブレット端末やアプリケーションを使用すれば、事務所まで行ってカルテを開かなくても記録が可能です。
実際に政府が取り組みを進めているのが「ICT支援事業」です。
介護ソフトやタブレット端末、Wi-Fi機器の導入設置を対象に、事業所に一定の補助金が支給されます。
利用者宅を訪問する訪問介護員であれば、事業所に戻らなくてもタブレットで記録が記入できるようになるのです。
インターネットを介し、ケアマネジャーと情報共有も可能です。
このような介護業務のICT化は介護士の負担軽減だけでなく、若年層スタッフの人材獲得、および定着につながるとも考えられています。
【参考】厚生労働省「介護現場におけるICTの利用促進」
利用者の方に適切な介護サービスを提供するためにも、職場のチームワークは欠かせません。
忙しく顔を合わせられないスタッフとも、介護記録を開けば同じ情報を共有できます。
スタッフ全員が共通認識のもと、より良い介護サービスを提供できるようになるのです。
介護記録作成のポイントをおさえ、日々のケアに役立てていきましょう。
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