「自立支援介護」は近年、国や介護業界が推し進めている取り組みです。
従来の「お世話をする介護」ではなく、「自立した生活を支える介護」をねらいとしています。
実際の介護現場では、どのようなケアがなされているのでしょうか?
こちらでは、自立支援介護の内容についてわかりやすく解説していきます。
介護保険制度が開始した2000年(平成12年)以降、介護サービスを必要とする人は年々増加傾向にあります。
少子高齢化が問題になるなか、自立支援介護は、高齢者の自立した生活を支援し、要介護状態を軽減することを目的に誕生しました。
政府は2006年(平成18年)、介護予防支援事業をスタート。
要介護への移行を予防する取り組みは、各地域で活発化しています。
自立支援介護も、高齢者の暮らしを支える取り組みのひとつ。
生涯現役という目標を掲げ、要介護状態にならない元気な高齢者を増やすことを目的としているのです。
自立とは、「身体的自立」、「精神的自立」、「社会的自立」の3つの要素で成り立っています。
身体的に自立していても、精神的・社会的に自立していなければ、解決すべき課題があると考えられるのです。
また、身体的な自立が精神的自立を促し、社会的な自立につながるケースもあります。
このように、身体・精神・社会の3つの自立は、お互いに重なり合いながら連鎖していくのです。
高齢者にとって重要なのは、身体的な自立です。
ADLと呼ばれる日常動作が可能となることで、他者に依存しない、精神的自立が可能になると考えられます。
調理や買い物といった生活動作ができれば、外出機会も増え、活動範囲は社会へと広がっていくでしょう。
そのため、自立支援介護ではADL向上を基本としたケアが行われます。
要介護状態への移行を防ぐ鍵は、日々の暮らしの中にあると言えるのです。
自立支援介護では、「水分」、「食事」、「排便」、「運動」の4つのケアが基本です。
これらの基本をおさえることが、高齢者のADLの維持または向上へとつながっていきます。
人間の身体の多くは、水でできています。
成人の身体は60%以上、高齢者では50~55%を水分が占めているのです。
高齢者にとって、こまめな水分摂取は非常に重要です。
夏場だけでなく、暖房器具で乾燥しがちな冬場にも脱水は起こる可能性があります。
高齢者によくみられる皮膚の乾燥も、水分不足が原因のひとつです。
そのため、自立支援介護では、1日あたり1500mlの水分摂取を基準としています。
介護が必要な方に心配されるのが、食事量の低下です。
食事量が少なくなると、1日に必要なエネルギーだけでなく、ビタミンやミネラル、たんぱく質といった栄養素が不足してしまいます。
特に、たんぱく質は筋肉や臓器を構成する重要な栄養素です。
たんぱく質が不足すると、筋肉量が低下したり、関節に痛みを感じたりするケースが考えられます。
結果的に、日常生活動作が困難となってしまうのです。
必要な栄養素を補いADLを維持するためには、1日あたり1500kcalの食事が望ましいとされています。
加齢にともなう機能低下や筋力低下は、高齢者の便秘の原因となります。
食事量の低下や服薬が影響することもあるでしょう。
自立支援介護では、3日以内の自然排便が好ましいとされています。
排泄をコントロールできることは、精神的な自立にもつながるからです。
また、腸内環境と健康は密接な関わり合いがあります。
腸内環境が悪化すると、免疫力が低下するだけでなく、脳機能低下につながるとも言われているのです。
排便をスムーズにするためには、適度な運動と食事が大切。
自立支援介護では、これらを総合的に支援することが重要になっていきます。
日常動作に必要な筋力を維持、向上させるために欠かせないのが運動です。
高齢者の運動は、下肢筋力向上がポイントです。
加齢により下肢筋力が低下すると、すり足歩行となり、筋力アップのための効果が望めないからです。
自立支援介護では、下肢筋力を増やすウォーキングが運動の第一歩。
「歩く」という行為には、脳に刺激を与え、活性化する効果も期待できます。
歩くために外出する習慣があれば、引きこもり予防にもつながるでしょう。
交流の場が広がり、社会的な自立も可能となります。
介護サービスを提供する事業所では、高齢者の自立支援に向けたさまざまな取り組みがなされています。
それぞれの具体的な内容を確認していきましょう。
介護予防運動指導員とは、高齢者の自立した生活をサポートする介護予防のプロフェッショナルです。
一人ひとりに合ったプログラムを提案し、運動やトレーニングなどの指導を行います。
活躍の場は幅広く、老人ホーム以外にも医療施設やリハビリテーション施設、地域のスポーツセンターなどで求められる仕事です。
高齢者のADLを向上させるためには、運動が重要な役割を担っています。
施設でのトレーニングだけでなく、生活に取り込める運動を提案することで、日常的に身体が動かせるようになるのです。
自立支援、介護予防の需要が高まっていくなかで、介護予防運動指導員は大きな役割を担っていると言えるでしょう。
生活リハビリは、着替えや入浴、トイレといった日常生活に必要な動作を支援するものです。
日常生活のすべてをサポートすることは、利用者の方にとって望ましい介護ではありません。
適切な介助をしながら、今ある力を引き出すことが求められます。
施設によっては、調理や買い物をリハビリとして取り入れる現場もあるでしょう。
特に、入院生活から在宅復帰する方にとって生活リハビリは重要です。
身の回りの動作を自分でできることは、精神的自立にもつながります。
些細な動作であったとしても、生活の中で積み重なれば運動量も増加していくのです。
在宅介護においても、「できることは自分でしてもらう」という心がけが自立支援のポイントです。
介護予防に力を入れる事業所では、筋力向上のためのマシンを取り入れたリハビリを行っています。
指導にあたるのは、介護予防運動指導員のほか、理学療法士のようなリハビリスタッフです。マシンの負荷量や回数を調整し、一人ひとりに合った無理のないトレーニングを行います。
また、自立支援介護の基本「食事」にもつながるのが口腔体操です。
口を大きく動かしたり発声することで、食べ物を飲んだり噛んだりといった口腔機能の働きを向上させます。
嚥下(えんげ)と呼ばれる飲み込む力に作用するため、昼食前に取り入れることの多い体操です。
そのほか、介護予防体操や歩行訓練といったさまざまな動作を通し、日常生活動作の維持向上が図られています。
外出や地域との交流活動も、自立支援に効果的なレクリエーションです。
お花見や七夕、忘年会といった季節ごとの行事は、季節を楽しみ、毎日の生活に刺激を与えます。
他者との関わりにより、社会的自立も促進されるでしょう。
「地域で自分らしく暮らしていく」という、自立支援本来の目的に大きく関わっています。
自立支援介護には、以下のようなメリットがあると考えられます。
高齢者本人だけでなく、周囲の家族や介助者、社会にも影響をもたらすことがポイントです。
QOL(Quality of Life)は、人生や生活の質を意味した言葉です。
自立支援介護により身の回りの動作が可能となれば、外出機会も増え、社会生活も活発化します。
結果的に、毎日の生活の質が向上すると考えられるのです。
食事や排泄、運動を基本とした自立支援介護は、高齢者の健康にも大きく影響します。
良い健康状態が維持されることも、QOL向上の大きなポイントとなるでしょう。
介護者の負担軽減は、介護施設だけでなく、在宅介護にも大きく関係する問題です。
例えば、自生活機能が向上しトイレでの排泄が可能になれば、オムツが不要になります。
オムツ代が削減されるだけでなく、オムツ替えの必要もなくなるのです。
排泄介助は、自尊心に深く関わるケアです。そのため、介護される側もメリットが得られます。
このように、自立支援介護による介護負担の軽減は、介護する側、される側双方にメリットを生み出しています。
身体的負担はもちろん、精神的負担も軽減することができるのです。
自立支援により生活動作が向上すれば、介護度の改善が期待できます。
介護度が進むと負担が大きくなるのが、医療費や介護費です。
介護度が改善されれば、経済的負担を軽減できます。
また社会全体で考えると、社会保障費が削減されるという一面もあるのです。
自立支援介護は、高齢者本人、家族、社会へ多くのメリットを生み出すケアです。
その一方で、次のような問題点や注意点が指摘されています。
自立支援介護では、要介護状態になることを予防するため、さまざまな運動を行います。
しかし、動作能力の向上ばかりに注目することで、無理な機能訓練が実施されてしまうのではないかと懸念されているのです。
自立支援のためには運動だけではなく、食事や水分、排泄といった基本のケアを総合的にとらえることが求められます。
介護サービスで重要なのは「介護は誰のためのものなのか」という視点です。
自立支援介護に関わらず、介護サービスは利用者本人の意思決定のもと提供されなくてはいけません。
利用者の方の意思を尊重してこそ、自立支援は実現していくのです。
自立支援介護は、高齢者が住み慣れた土地で自分らしい生活を送ることを目的としています。
在宅復帰のための支援もそのひとつです。
しかし、身体状況や家庭環境によっては、必ずしも在宅復帰が第一ではない場合もあります。
介護者がおらず、ひとりでの生活が難しければ入所の検討も必要です。
自立支援介護においても、無理なリハビリや在宅復帰は好ましくありません。
本人の希望と状況を総合的に判断したうえで、最適と思われるサービスを検討しましょう。
要介護状態をつくらないための自立支援介護は、今後さらにニーズが高まると予想されます。
自立支援のための取り組みは、施設によってさまざまです。
リハビリ内容やレクリエーションなど総合的に判断し、自分に合った施設を選ぶことが、日々の生活の質向上へとつながっていくでしょう。
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