更衣介助は朝晩の着替えや入浴時に必要なケアです。利用者の方の負担を軽減するためにはスムーズな更衣介助が求められます。こちらでは、介護現場で必要な更衣介助の手順を解説していきます。注意点や衣服選びのポイントも、あわせて参考にしてください。
更衣介助とは、着替えが困難な方の更衣を介助するケアです。腕を上げるのが難しい方や麻痺のある方にとって、衣類の着脱は難しいものです。健康な方が思うより、時間や体力が必要なのです。
よりスムーズに介助するためには、更衣介助は手順を追って行うことが大切です。基本をしっかりと理解しておけば、利用者の方の身体状況に応じた介助を行えます。自立支援を促すためにも、利用者の方が自分でできる部分を活かしたケアが必要です。
また更衣介助には、以下のような3つのメリットが考えられます。
衣服を新しいものに取り換えることは、清潔保持につながります。皮膚を清潔な状態に保てるので、皮膚疾患の予防効果も高まります。
また朝晩決まった時間に着替えをすることで、生活にメリハリが生まれる効果も期待できるでしょう。
さらに介助を受けながら自分で更衣する動作は、生活リハビリの一環でもあります。日常生活に必要な動作を自分で行うことができれば、QOLと呼ばれる生活の質も向上するのです。
寝たきりの方や麻痺のある方など、利用者の方の身体状況によって介助法は異なります。高齢者の自立した生活を支援するためにも、1人ひとりに合った介助法をマスターしておきましょう。
スムーズに更衣介助するためには5つの注意点があります。介助にあたる前に、それぞれの内容をしっかりとおさえておきましょう。
利用者の方の衣服を代えるときは、「脱健着患」が基本です。これは「健康な部位から脱ぎ」、「患うところから着る」という介助の基本を意味します。特に、身体の片側に麻痺のある方の更衣介助をするときには、忘れてはいけない注意点です。
麻痺のある側から上着を脱ごうとすると、腕が持ち上がらず身体に負担がかかってしまいます。腕が自分で上下できる側から袖を脱ぎ、麻痺のある側は動かさないよう衣服を抜き取ればスムーズに服を脱ぐことができます。服を着るときも同様に、麻痺のある側は無理に動かさないように意識します。腕ではなく、衣服を動かしながら袖を通すのが基本です。
介助に慣れないうちは、脱健着患どちらが先か戸惑ってしまうこともあるかもしれません。そのときは、どちらが利用者の方に負担がかからないか、落ち着いて振り返るように心がけましょう。
更衣の前には、服を脱いだときに寒くないよう室温をチェックします。理想の室温は、22~25度です。
特に温度差が大きくなりがちな脱衣所では注意が必要です。暖かい部屋から寒い脱衣所へと移動すると、ヒートショック現象を起こす恐れがあります。
ヒートショック現象とは、急激な温度差で血圧が変動し心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすことです。冬場に入浴介助をするときは、更衣の前に脱衣所の室温もチェックするようにしましょう。
またほかの人がいる場所では、プライバシーに配慮しながら介助にあたります。大部屋のベッド上で更衣介助をするときは、カーテンで他者の視線を遮りましょう。複数の利用者の方を入浴介助するときには、更衣の途中に肌が露出しないよう、タオルなどで隠す配慮も必要です。
更衣介助は、流れのすべてを手伝えば良いわけではありません。利用者の方のできない部分を中心にサポートすることが大切です。残存機能を活かしながら介助することは、利用者の方の自立支援につながります。介助中は声をかけながら、利用者の方の動きを促しましょう。
自立を促しながら介助するためには、利用者の方の身体状況を把握しておく必要があります。ご家族やケアマネジャーなどと相談しながら、介助法を検討しましょう。身の回りのことを自分でできれば、利用者の方も自信を得られます。ズボンの上げ下ろしができるようになれば、トイレの介助負担を軽減することも可能です。
脱健着患とともに心がけたいのが、麻痺のある部分は下から支えるということです。着脱時に上からつかむように持ち上げると、思わぬ事故につながる恐れもあります。
特に、衣類に袖を通すときには注意が必要です。拘縮(こうしゅく)と呼ばれる、関節の可動域が悪い症状がある場合は、無理に引っ張ってはいけません。利用者の方の身体状況を確認しながら、慎重に介助しましょう。
更衣介助は、利用者の方の皮膚状態を観察するタイミングでもあります。高齢者の肌は、汗や皮脂の分泌量が減少し、バリア機能が低下しています。そのため、少しの刺激でも肌に傷がついてしまいます。かゆみも生じやすく、本人も気付かない間に掻き傷ができてしまうこともあるでしょう。
また、寝たきりの利用者の方の更衣介助で確認したいのが「褥瘡(じょくそう)」の有無です。褥瘡は床ずれとも呼ばれ、皮膚の血流が滞ることで起こる皮膚疾患を指します。圧迫を受けやすいお尻やかかと、肘に生じることが多く、ひどくなると皮膚の深層部位まで患部が広がってしまいます。
褥瘡の初期は、皮膚が赤みを帯びた状態です。更衣介助中に褥瘡を発見したときは速やかに他職種と情報共有し、必要に応じた治療にあたりましょう。
スムーズな更衣介助には、衣服選びも大切です。家族の介助にあたるときには、次のポイントをふまえながら衣服を選んでみましょう。
更衣介助には、ゆとりのあるサイズの衣服がおすすめです。特に麻痺のある場合は、ゆったりした衣服のほうが負担なく着脱できます。ズボンのウエスト部分も、締め付けの少ないものを選びましょう。
スムーズに着脱するには、硬い素材の衣服は避けたほうが無難です。硬い生地や、お尻にポケットやボタンがついたズボンは褥瘡の原因になります。座ったり寝たりといった同じ姿勢が続く場合は、衣服のデザインも注意しましょう。
更衣の負担を軽減するためにも、衣服は身体状況に合わせたものを選ぶことが大切です。体の片側に麻痺があると、かぶるタイプの衣服は着脱しづらい場合もあります。着心地だけでなく、自分で脱ぎ着できるかという点も服選びの大切なポイントです。
基本をふまえたうえで、寝たきりの方の更衣介助の手順を紹介していきます。更衣介助の前には、まずは以下の3つの準備をします。
これらの準備を終え、利用者の方の右側に介助者が立っていることをイメージしながら手順を追っていきましょう。
利用者の方が寝ている状態で、左腕から着替えていく場合の手順は以下のとおりです。
ズボンの更衣介助は、利用者の方に両膝を立ててもらいながら行うのがポイントです。
ここからは、座った状態でかぶりの上着を更衣介助する手順を追っていきます。左側に麻痺のある方を更衣介助するケースです。
スムーズに更衣介助するためには、注意点とともに手順を把握しておくことが大切です。麻痺のある方の場合、無理な介助が思わぬケガにつながるケースもあります。ベッド上での更衣介助では、無理の少ない姿勢を心がけなくてはいけません。
衣服を新しいものへ変えることは、清潔を維持するだけでなくリフレッシュ効果ももたらします。ひとつひとつの手順を丁寧に行い、利用者の方に負担のない更衣介助をマスターしましょう。
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