介護施設や医療施設で働く介護職員は、基本的に医療行為を行うことは禁止されています。しかし現場では線引きが難しく、介護職員だけでは判断しかねるケースもあります。こちらでは、介護職員ができる医療行為やできない医療行為について、詳しく解説していきます。爪切りや服薬介助、インスリン注射への介護職員の関わり方も紹介するため、ぜひ現場で働く際の参考にしてください。
介護職員の医療行為には、細かな規定があります。「耳かきはしても大丈夫?」「爪切りを頼まれたけどどうしよう」と、不安になる場面もあるかもしれません。
介護現場では、「喀痰吸引」や「経管栄養」など、研修を受けることで実施できる医療的ケアもあります。しかし、実際に働いていると細かなケアの線引きに戸惑うこともあるのではないでしょうか。
介護職員に認められている医療行為には、以下の2つのパターンがあります。
現場で混乱しないためにも、まずはそれぞれの項目について確認していきましょう。
2005年(平成17年)、厚生労働省は「原則として医療行為にあたらない」として以下の項目を提示しました。背景には、高齢化により医療的ケアが必要な利用者の方が増えたことが影響していると考えられます。これらについては、すべての行為が安全に行われることを前提として定められています。
ただし薬にまつわる項目は、利用者の方の容態が安定していることを条件としています。介護職員が判断するのではなく、あくまでも家族や本人から依頼があった場合に認められていることも覚えておきたいポイントです。
以下の項目は、原則として医師法の規制対象外であるとされています。つまり、介護職員が利用者の方へ提供できるケアです。それぞれには細かな条件もあるため、きちんと把握しておきましょう。
爪へのケアは、爪そのものに異常がない場合に限られます。また、爪周辺の皮膚に化膿や炎症がないことも条件です。糖尿病などの疾患があり、専門的な管理が必要な場合は行うことはできません。
歯ブラシを使った歯磨きや、口腔内の粘膜、舌の汚れを取り除く口腔ケアは、介護職員に許可された行為です。ただし、重度の歯周病がない日常的な口腔内の清拭に限られています。
耳かきも医療行為にはあたらない行為です。「耳垢栓塞(じこうせんそく)」と呼ばれる、耳あかが詰まった状態になると、介護職員は除去を行えないため注意しましょう。
ストーマとは人工肛門や人口膀胱のことです。人工肛門の場合、装着したパウチと呼ばれる袋に排泄物が溜まります。排泄物の処理は、医療行為にあたらないと認められています。ただし、利用者の方が装着したパウチそのものの取り換えを行うことは認められていません。
【参考】厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」
研修を受けた介護職員のみ行える医療行為もあります。「喀痰吸引」と「経管栄養」、この2つの行為です。それぞれどのような医療行為なのか、具体的な内容をみていきましょう。
喀痰吸引は、気管に入り込んだ痰(たん)や唾液、鼻汁をチューブで吸引する行為です。鼻や口から細いチューブを差し込み、気管内を清掃します。
健康な状態であれば自力で吐き出せる痰も、体力や意識レベルが低下すると自力で体外へ出せなくなってしまいます。放置すると呼吸困難や誤嚥性肺炎の原因となるため、機械を用いて取り除き、呼吸の改善を図ります。
喀痰吸引を行う際は、吸引器や吸引カテーテル、アルコール綿などを準備します。無理やりカテーテルを挿入したり、何度も動かしたりすると粘膜を傷つける恐れがあるため注意しなくてはいけません。研修では安全で正しい方法で喀痰吸引を行えるよう、細かな手順について学習します。
経管栄養はチューブやカテーテルで胃に直接栄養を送り込む方法です。何らかの理由により、口から物を食べられなくなった場合に用いられます。
経管栄養には「胃ろう」、「腸ろう」、「経鼻経管栄養」といった3つの種類があります。胃に穴をあける方法が「胃ろう」、腸に穴をあける方法が「腸ろう」です。いずれも管理がしやすく、介護者の負担を軽減できる方法になります。一方で、外科手術が必要な点がデメリットとして挙げられます。
「経鼻経管栄養」は、鼻の穴から食道や胃にチューブを通す方法です。「胃ろう」や「腸ろう」と異なり、外科手術は必要ありません。不要になればすぐに取り外せるため、短期間で嚥下機能が回復しそうなケースに用いられます。
喀痰吸引や経管栄養を行うためには、介護福祉士実務者研修を修了する必要があります。介護福祉士実務者研修は、国家資格である介護福祉士の受験資格のひとつです。つまり、介護のプロを目指す方には重要な資格だといえます。
研修では喀痰吸引や経管栄養のほか、認知症についての学術的な知識や、認知症の方への理解といった専門的な内容を学習します。修了後は、訪問介護事業所で「サービス提供責任者」として働くことも可能です。
受講資格は設けられていないため、年齢や経験問わずどなたでも挑戦できる資格です。介護資格の入門編ともいえる「介護職員初任者研修」を取得済みの場合は、受講科目が一部免除されます。
介護施設では、利用者の方の身体状況に応じたケアが求められます。なかには、抱えている疾病に応じた医療的ケアが必要です。周囲に医師や看護師がいない場合、自分がどこまで対応できるか迷うこともあるかもしれません。以下の行為が必要な場合は、看護師へ対応を依頼するよう覚えておきましょう。
インスリン注射は、糖尿病の方に必要な医療的ケアです。体内に不足しているインスリンを注射で補給し、血糖値を降下させます。投与方法や効果が作用する時間は患者によって少しずつ違いがあるため、個々に応じた対応が必要です。介護職員が利用者の方にインスリン注射を打つ行為は認められていません。
摘便は、肛門から指を入れ便をかき出す行為です。何らかの原因で、自力で排便できない場合に行います。摘便には出血のリスクがあり、実施するためには専門的な知識が必要です。介護職員が行うことは禁止されており、看護師が対応する医療的ケアにあたります。
褥瘡(じょくそう)とも呼ばれる床ずれは、圧迫された皮膚に赤みやただれといった症状が起こる病気です。長時間同じ姿勢が続く寝たきりの方に生じることが多く、ひどくなると潰瘍(かいよう)や細菌感染へとつながります。
床ずれの処置には、軟膏を塗布しドレッシング剤と呼ばれる保護テープを貼る方法が用いられます。これらの処置は介護職員では対応できないため、看護師に依頼する必要があります。
床ずれは長時間の同じ姿勢でいることが原因となるため、介護職員として体位変換や早期発見といったケアが必要です。利用者の方の肌に異変がないか、普段から観察を心がけましょう。
血糖測定は血糖値のコントロールを目的に行います。主に糖尿病患者が血糖測定器を用い、自分で血糖値を測定します。血糖測定器の先には小さな針が付いており、介護職員が測定器を用いて血糖値を測定することは認められていません。
点滴はボトルやバッグに入れた薬剤を吊るし、注射針を通して体内へ投与する医療行為です。点滴の管理は介護職員には認められていません。他の医療行為と同様に、点滴の管理は看護師へ依頼しましょう。
前述したように、インスリン注射は介護職員には認められていない医療行為です。利用者の方にインスリン注射が必要な場合、介護職員は「声かけ」や「見守り」でサポートします。
インスリン注射を忘れないよう、事前に声をかけるのも必要な支援です。血糖測定器を用いる際は、センサーや針、消毒綿といった準備が必要になります。これらの準備は、介護職員に認められています。
注射や測定器の使用は介護職員には認められていませんが、利用者の方の健康を見守ることは大切な仕事です。本人がスムーズに血糖測定できるようにサポートし、測定結果は一緒に確認するように心がけましょう。
医療的ケアが必要な高齢者の増加にともない、介護職員ができる医療行為の範囲は広がりつつあります。しかし、介護職員に認められている行為は、安全に行うことが前提です。自己判断はせず、医師や看護師と連携を図りながら行うことを忘れないようにしましょう。
家族や利用者の方、勤務先から行為を求められても、きちんと断る姿勢が大切です。そのためには、自分自身が医療行為の範囲について理解を深める必要があります。目の前で利用者の方が困っていると、どうしてもサポートしたくなってしまうものです。知らずに規定違反をしないためにも、介護職員のできること、できないことはしっかり区別するよう心がけましょう。
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