「看取り介護」は、入居者の方が自分らしい最期を迎えられるように行うケアです。増加する高齢者にともない、今後看取りのニーズはより一層高まるといわれています。こちらでは、看取り介護の内容やターミナルケア・緩和ケアとの違いを解説いたします。介護職の役割や、看取りの不安を軽減させる方法もご紹介しますのでぜひ参考にしてください。
「看取り」とは、人生の最期を迎えるその日まで、その人が自分らしく暮らすための生活をサポートすることです。全国老人福祉施設協議会では、看取りを以下のように定義しています。
『看取り』とは、近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること。
【出典】全国老人福祉協議会「看取り介護指針・説明支援ツール」
看取りは今後増加が予測される終末期支援のひとつです。看取りが注目される背景には、現代社会が抱える少子高齢化問題が大きく影響しています。
「多死社会」とは、高齢化により死亡者数が増加し、人口が減少していく現象です。団塊世代が80歳後半となる2030年代には、国内の死亡者数が160万人を超えると推計されています。
これは、2010年の死亡者数約120万人の70%増にあたります。その後も死亡者数は160万人前後で推移し、2050年には人口の約4割を高齢者が占めるといわれています。
多死社会のなかで深刻化するのが「看取りの場の確保」です。病床や介護施設には限りがあるので、在宅での看取りのニーズは、今後より一層増加すると考えられます。
2014年度の厚生労働省の調査によると、介護保険施設の半数以上が看取り介護を実施しています。介護療養病床をはじめとする療養型施設の実施率は約8割、特別養護老人ホームは約7割です。
介護保険施設における看取りに関する計画の策定状況 | |||
看取り計画を立てて
看取りを行っている |
計画は立てていないが
看取りを行っている |
計 | |
特別養護老人ホーム | 56.4% | 16.5% | 72.9% |
老人保健施設 | 51.6% | 10.1% | 61.7% |
介護療養病床 | 28.2% | 58.1% | 86.3% |
医療療養病床 | 35.3% | 52.8% | 88.1% |
また、2021年度の介護報酬改定では、特別養護老人ホームの看取り介護加算が拡充されています。
この改定では、新たに「死亡日45日~31日前」の対応を評価する区分が新設されました。改定前は「死亡日以前30日から」が評価対象だったことを考えると、看取りケアの対象が拡大されていることがわかります。
ほかにも「ご本人の意志を尊重した支援の実施」が加算要件に加えられるなど、介護現場における看取りケアは、今後さらに重要視されていくと考えられます。
「看取り介護」とターミナルケア、緩和ケアは、ケアの内容に違いがあります。看取り介護は、近い将来に死を避けられないとされた人に提供する、介護や介助を中心としたケアのことです。
一方、ターミナルケアは医療を中心としたケアを意味しています。医療現場に入院される方を対象とした、終末期医療とも呼ばれるものです。
また、緩和ケアは身体および精神的苦痛を和らげることを目的に行います。主にがんなどの重大な病気を患った方が対象であり、終末期に限らず治療と並行して行われるものです。医療現場で終末期を間近にした方を支援するターミナルケアは、緩和ケアの一部といえます。
看取りの現場において、介護職は以下の3つの役割を担っています。
看取り介護は入居者の方だけでなく、ご家族もあわせてサポートする姿勢が大切です。ご家族への支援は看取りのあとも続きます。ここからは、看取りにおける介護職の役割を確認していきましょう。
介護職は入所される方の身体状況に応じ、可能な限り入浴や清拭を行います。清潔保持だけでなく、感染症予防も目的です。他職種と連携を図りながら、入所される方の身体状況と好みに合わせた食事や水分の提供に努めます。
安楽な体位を工夫し援助するほか、医師の指示のもと、痛みを緩和させる処置を適切に行うことも役割のひとつです。
精神的ケアは、職員の思いやりを常に感じてもらえるように意識しながら行います。入居者の方やご家族が職員の気配りを感じられるよう、頻繁に居室を訪れることも大切です。声かけやコミュニケーションを行いながら、ご本人やご家族の意思をくみ取り、適切なケアを提供します。
グリーフケアとは、入居者の方を看取ったご家族の心をサポートすることです。入居者の方とのお別れやお見送りは、可能な限り介護職も同席します。必要に応じた葬儀の連絡調整や相談対応も介護職の役割です。
看取り介護の流れは、「適応期」と呼ばれる入所から「看取り」のその後まで以下のように続きます。
介護職は、入居者の方の身体状況と心の変化に応じ、そのつど適切なケアを行います。いずれも他職種と連携し、柔軟な姿勢で取り組むことが大切です。ここでは、それぞれの時期に心がけたい注意点についてみていきましょう。
入所から1ヶ月の間は、適応期と呼ばれます。施設の看取りの理念や今後の経過予測を、入居者の方に説明する時期です。やがて訪れる最期をどのように迎えたいのか、考えるために必要な情報を提供します。
1ヶ月ほどたつと入居者の方も生活に慣れてくるため、希望や要望を再度確認します。入居時は言い出せなかった不安や悩みに、丁寧に耳を傾けましょう。
安定期は、施設で一定期間を過ごした入居者の方の意向を確認する時期です。入所から今までの意識変化や、今後の希望を把握するように努めます。
また、入居者の方だけでなく、ご家族とのコミュニケーションも重要です。ご家族の意向は否定せず、常に変化が生じるものとして受け入れましょう。
入居者の方に衰弱傾向が現れた時期を、不安定・低下期と呼びます。身体状況に応じた食事内容や、ケア内容の見直しが必要な時期です。
ご本人やご家族に向けた病態の説明は、医師が直接行います。介護職は、食事量や排泄物の変化などを細かに記録しましょう。記録は他職種と共有し、ご家族への情報提供に努めます。
看取り期は、衰弱が進み回復が望めないと医師が判断した時期です。介護職は、医師の所見をご家族とともに聞くようにしましょう。
食事や水分摂取量が低下してくるため、ご家族が不安を抱かないよう、看取り期の自然な変化であることを伝えることも大切です。入居者の方やご家族が最期のときを受け入れられるよう、身近な存在としてサポートを続けます。
看取りが間近だと判断されたら、介護職は医師とご家族の橋渡し的な役割を担います。ご家族の意向をこまめに聴き取りながら、意向に沿った援助を行いましょう。
より良いケアが提供されたことは、お別れ後のご家族の心の支えになります。最期のときは悔いが残らないよう、ご家族だけで過ごせる空間づくりが必要です。看取り後は、ご家族の心情や事情を考慮しながら心理的支援に努めましょう。
看取りの不安を軽減させるためには、業務内容についてきちんと把握する必要があります。看取り介護への理解を深め、記録を他職種と共有し、ケア内容を振り返ることも大切です。入居者の方の最期に関わる看取り介護は、誰もが不安を抱えるものです。ここからは、看取り介護の不安を軽減させるための4つの方法を確認していきましょう。
看取り介護をしていると「トラブルが生じたらどうすれば」と不安を抱えることもあるかもしれません。緊張や不安を少しでも軽減させるためには、あらかじめ業務内容を把握しておくことが第一の方法です。
その日に行う業務や緊急時の対応を把握しておけば、心の負担を軽減できます。施設の実績や先輩の体験談などを参考にするのも良いでしょう。
看取り介護は、入居者の方の自分らしい最期を支援するためのケアです。ケアの内容は、あくまでもご本人やご家族の意向に沿って行います。
介護内容に不安や悩みを抱えたときは、看取り介護の目的に立ち返り、理解を深めることも大切です。「悔いのない最期を支援するためにどうすれば良いのか」という意識を持てば、きめ細やかなケアを実現できます。
入居者の方の変化はこまめに記録し、状況に応じて振り返りを行いましょう。記録を振り返ることで、入居者の方の変化を客観的に捉えることができます。
看取り介護を行う介護士として経験を積むうえでも、記録と振り返りは重要です。やがて訪れる看取りに不安になったときは、過去の記録を参考に心の準備へつなげることもできるでしょう。
看取り介護に不安を感じるときは、1人で抱え込まず他者へ相談しましょう。看取り介護は、スタッフ間の連携が欠かせません。他者と悩みや不安を共有したほうが、より良いケアにつながります。
相談相手は同僚や先輩介護士に限らず、看護師やケアマネジャーといった他職種のスタッフもおすすめです。看取り介護に関わる人たちに相談し、不安解決の糸口をつかみましょう。
看取り介護は、その人らしい最期を迎えるためのケアです。身体、精神両方の側面から入居者の方をサポートします。介護職としては、そばで見守るご家族の心理状態も含めたケアが必要です。看取り介護への理解を深め、他職種と連携を図れば、ケアの不安軽減につながります。
介護における専門職として、看取りの現場で入居者の方とご家族をサポートしていきましょう。
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