「介護と介助の違いは?」と聞かれても、はっきりと答えられない方も多いのではないでしょうか。介護士として働くならば、それぞれの違いを正しく理解しておきましょう。こちらでは、それぞれの違いとともに、基本的な身体介助の種類や方法を解説いたします。利用者の方をサポートするため、安心安全な介助法を身に付けていきましょう。
「介護」と「介助」は、似ているようでそれぞれ違いがあります。日常生活では、その違いを意識することはさほどないかもしれません。
しかし、介護士として介助にあたる際は、違いや目的を正しく理解しておく必要があります。ケアの意味や目的を理解したうえで介助することが、高齢者の自立支援につながるからです。まずは、「介護」と「介助」それぞれの違いを確認していきましょう。
「介護」の大きな目的は、利用者の方の自立支援です。具体的には、日常生活動作=「ADL」の自立を目指します。日常生活における主なADLの内容は、以下の8点です。
朝起きてから夜眠るまで、私たちの1日を振り返ると、これらの動作が生活に欠かせないことが理解できるのではないでしょうか。つまり、ADLの自立は、生活全般の自立へとつながっているのです。
そのため、介護では高齢者のできること、できないことを見極めることが重要です。生活動作すべてに手を差し伸べることが正解ではありません。身体状況を判断し、本人や家族の希望をくみ取りながら、その人が自分らしい毎日を送れるように自立支援をおこないます。
「介助」は、日常生活をサポートする具体的な手段を意味します。街中で困っている人がいたとき、手を差し伸べる行為も介助のひとつです。
介護現場では「入浴介助」や「食事介助」のように、生活動作をサポートする行為それぞれに応じた介助法があります。また、介助は自立を支援することはもちろん、安心安全におこなわれなくてはいけません。
「介護」が高齢者の生活の全体を見るものだとすると、「介助」はそのときに必要な手段だといえます。介護士として働く際は、利用者の方の自立支援を念頭に、それぞれの介助をおこなう必要があります。
介助法は利用者の方の身体状況に応じ、以下の4段階にわかれます。
介護現場では、それぞれの違いを意識しながら介助する必要があります。例えば、自立が当てはまる方に全介助をしていては、自立を支援することにはなりません。
また、利用者の方によっては「食事は自分でできるが、入浴は一部介助が必要」のように、動作ごとに求められる介助法が異なります。そのときどきの変化に対応しながら、介護士として高齢者の自立を促すための介助を実践していきましょう。
自立は必要な動作が自分でおこなえる状態です。そのため、介護士が介助をする必要はありません。ただし、不注意による転倒やケガがないように、動作中は十分な注意を払います。
主な基本動作は自立しているものの、見守りや誘導が必要な状態です。「自立歩行できるが、転倒やふらつきの恐れがある」といった場合は、一部介助が必要と判断し、見守りをおこないます。
介助者の手助けがあれば、動作をおこなえる状態です。衣服に袖をとおすときだけ手助けしたり、トイレでズボンを上げる行為を手伝ったりすることも半介助にあたります。
半介助は高齢者に残る力を引き出せるよう、声かけをしながらおこなうことが大切です。あせって動作を急かしたり、必要以上に手助けしないように気を付けましょう。
手助けがあったとしても、自分で特定の動作がおこなえない状態です。要介護度が高い方ほど、全介助が必要な動作が多くなります。
例え全介助であったとしても、自立支援が不要なわけではありません。医師や看護師、リハビリスタッフと連携を図りながら、本人の残存能力を引き出す方法を検討していきます。
介護や福祉の現場では「介護士」と同様に「介助員」や「介助士」という呼び名を聞くこともあるのではないでしょうか。両者には、手助けが必要な方を支援するという共通の役割があります。しかし、現場でできる介助や目的には以下のような違いがあります。
「介護士」は、介護の仕事にたずさわる人を指す言葉です。高齢者介護施設に勤務するほか、利用者の方の居宅を訪問して生活を支援します。
また、介護士が働く場は高齢者施設だけではありません。介護士は児童福祉施設や障がい者施設といった幅広い現場で活躍します。
介護士の仕事は、利用者の方の自立支援が大きな目的です。入浴介助や排せつ介助のように、直接体に触れる介助もおこないながら、利用者の方の生活をトータルでサポートしていきます。
「介助員」や「介助士」とは、高齢者や障がい者をサポートする人のことです。日常生活や公共施設などで、動作に不自由のある方を支援します。
民間資格である「サービス介助士」は、介助に関する資格のひとつです。公共施設や交通機関を高齢者が安全に利用できるよう、サポートするためのスキルを身に付けられます。
ただし、介助員や介助士は、利用者の方の身体に直接触れる介助はおこなえません。介護士のように入浴介助や排せつ介助をおこなうためには、介護に関する資格を取得する必要があります。
介護士がおこなう身体介助は、主に以下の7種類に分類されます。
これらは、日常生活に大きく関わる介助です。安全に配慮しながら適切な介助ができるよう、それぞれの方法を確認していきましょう。
歩行介助は、転倒リスクを回避しながらおこなうことが重要です。自立や一部介助の状態であっても、足元や周辺状況への配慮が求められます。
片側に麻痺のある方の場合は、ふらつきに即座に対応できるよう、麻痺のある側に寄り添います。階段を上るときは半歩後ろ、降りるときは前側に寄り添いましょう。
また、杖や歩行器を使用する場合はメンテナンスも大切です。滑り止めが摩耗していないか、タイヤに不具合がないかなど事前によく確認しておきましょう。
移乗介助では、車椅子からトイレの便座、または食事用の椅子などに移り変わる動作をサポートします。移乗時は転倒の危険性が高いため、より安全への配慮が必要です。また、利用者の方の残存機能を活かす意識も求められます。
ベッドから車いすへと移るときは、ベッドの高さを調整したり、車椅子のブレーキを確認するなど事前準備が大切です。また、利用者の方と身体を密着させ重心を低くとると、お互いの身体的負担が少なく、より安全に移乗できます。
ベッドから起き上がるときの介助は、転倒への配慮が重要です。全介助の場合、利用者の方に胸の前で腕を組み、膝を立ててもらうなどして体をコンパクトにまとめると、少ない力で起き上がりやすくなります。
また、寝返りは床ずれ予防のために重要な介助です。長時間同じ姿勢が続くと床ずれができやすくなるため、必要に応じて寝返り介助をおこないましょう。
食事は健康を維持するために欠かせない行為です。食事量が少なくなると、体力や免疫力が低下してしまいます。
一方で、嚥下機能が低下している場合は、食事による窒息や誤嚥のリスクが高まります。安全に介助するためには、高齢者の食べるスピードに合わせながら、ひと口ずつ口に運ぶことが大切です。嚥下機能に応じ、食材を刻んだりとろみをつけたりといった配慮も求められます。
衣類の着替えは清潔保持につながります。腕を上げたり、立ち上がったりという動作が身体機能を向上させる効果も期待できるでしょう。
更衣介助の際は、ふらついたり転倒しないように配慮することが大切です。また、すべてを手伝うのではなく、本人ができることは自分でしてもらうように声かけをおこないましょう。
浴室は滑りやすく、転倒リスクが高い場所です。脱衣所から浴室へのわずかな段差や、浴槽をまたぐときにふらついたり転んだりする危険も考えられます。
また、冬場はほかの部屋と浴室の温度差がヒートショックの原因となります。ヒートショックとは、血圧の急激な変動により身体に大きな負担がかかることです。脳卒中や心筋梗塞の原因にもなり得ます。
冬場の入浴介助はあらかじめ脱衣所や浴室を暖めておくなど、こまかな配慮を忘れないようにしましょう。
排泄はとてもデリケートな行為です。そのため、排泄介助は利用者の方への配慮が求められます。身体状況に応じ、トイレへ行くのか、ポータブルトイレやオムツを使うのかといった判断も必要です。
トイレで排泄介助をするときは、できる行為は自分でしてもらい、排泄時はドアの外で待機するような配慮が求められます。ポータブルトイレを使用するときは、ふらつきに注意しながら介助しましょう。
寝たきりの方の場合は、ベッド上でのオムツ交換が必要です。オムツ交換は、あらかじめ必要な手順を理解しておくとよりスムーズにおこなえます。利用者の方のプライバシーに配慮しながら、身体的負担を軽減できるよう手際よく実践しましょう。
介護は利用者の方の自立支援が大きな目的です。介助はそのための具体的な行為であり、利用者の方の持っている力を活かすことがポイントとなります。介助時は安全に配慮しながら、身体状況に応じた方法を検討することが大切です。介護と介助の違いを理解し、利用者の方の自立した生活をサポートしていきましょう。
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