介護士には、利用者の方が安全に歩行するための「歩行介助」のスキルが必要です。こちらでは「見守り」「手引き」「階段昇降」などの歩行介助の種類を解説いたします。安全に歩行介助をおこなうための注意点やポイントもふまえ、利用者の方に適切なケアを提供していきましょう。
「歩行介助」とは、利用者の方の安全な歩行をサポートするケアです。高齢者にとって、自分の足で歩くことには大きな意味があります。また病気やケガなどで入院した場合にも、リハビリで重要視されるのが「歩くこと」です。
歩行介助の必要性を理解すれば、より利用者の方に適した介助がおこなえます。まずは、高齢者にとっての歩行のメリットや、安全に歩行するための介助器具について理解していきましょう。
高齢者にとって、歩くことには以下の3つのメリットがあります。
自分の足で歩き、移動することは下肢筋力の維持向上につながります。足が上がらなくなり、わずかな段差につまずくと転倒してしまう危険があります。高齢者にとって、転倒は骨折や大ケガの原因となります。転倒がきっかけで寝たきり状態にならないためにも、なるべく歩いて下肢筋力を保つことが大切です。
また、歩くことで活動範囲が広がれば、引きこもりを予防できます。外出できるようになれば、他者交流の機会も増えるでしょう。自分の好きな場所に自分で行けるというのは、生活の質を向上させるためにも必要なことです。「トイレへ行く」「台所で食事をする」など、日常動作の幅を大きく広げてくれます。
さらに、歩行のような有酸素運動には、生活習慣病を予防、改善する効果が期待できます。適度な運動で肥満を予防することで、糖尿病や高血圧のリスクも軽減されます。このように、歩くことは高齢者にとって、精神的にも身体的にも大きなメリットをもたらします。
歩行介助器具は、高齢者の安全な歩行をサポートするためのものです。歩行介助をする際は、身体状況に応じて以下のような器具を利用します。
介護現場では、歩行介助器具の選択は、主にリハビリスタッフがおこないます。また、商品を選択する際は、福祉用具専門相談員がアドバイスすることもあります。
福祉用具専門相談員は、福祉用具販売店や介護事業所に在籍する福祉用具の専門家です。利用者の方の身体状況や、生活環境に応じた歩行介助器具の利用を提案します。
介護士は、利用者の方にとってなぜその器具が必要なのかを理解し、他職種と連携しながら介助にあたります。介助前は「杖の滑り止めが摩耗していないか」「歩行器のタイヤ部分に問題がないか」など、器具の点検も忘れないようにしましょう。
歩行介助には、以下の5つの種類があります。
安全に介助するためには、それぞれの介助法を理解しておくことが大切です。また、介助法は一律ではなく、利用者の方の身体状況に応じて変化させる必要があります。利用者の方の自立した生活をサポートするためにも、それぞれの介助法を確認しておきましょう。
見守り歩行は、利用者の方の体に直接触れない介助法です。主に、歩行が自立している方の介助に適しています。
見守りといっても、介助者が何もしなくていいわけではありません。ふらつきがあった場合、即座に対応できるような配慮が必要です。「足元に障害物がないか」「滑りやすくないか」など、転倒リスクを回避する心構えが求められます。
特に、屋外や浴室などは転倒リスクが高い場所です。利用者の方の斜め後ろに寄り添い、とっさの介助ができるように意識しましょう。
利用者の方の手を引いて介助する方法です。主に、歩行器が使えない室内や浴室などでおこないます。普段は歩行器を使う方が、ごく短い距離を移動する際に適した方法です。
手引き歩行では、利用者の方のひじに下から手のひらを当て、腕全体で支えるようにサポートします。利用者の方には、介助者のひじの内側を上からしっかりと持ってもらうことが大切です。背後や左右に転倒しないよう、前へ重心を置いてもらうように心がけます。
また、手引き歩行は介助者が後ろ向きのまま移動しなくてはいけません。そのため、進路に障害物がないか、あらかじめ確認しておきましょう。歩くときは「いち、に、いち、に」と声をかけるとよりスムーズです。
手引き歩行は介助者が支えとなるため、長距離の移動には向いていません。より歩行を安定させるためには、歩行介助器具が適していることも覚えておきましょう。
介助者が利用者の方の片側に寄り添う介助法です。歩行がほぼ自立している方や、杖で片側を支えれば歩行できる方に適しています。
介助者は利用者の方の利き手ではない側に寄り添います。右利きの方であれば、左側に寄り添いましょう。介助者の右手を利用者の方の左腕の下に入れ、左手で利用者の方の左の手のひらを支えます。
片側に麻痺がある方の場合は、介助者は麻痺のある側に寄り添います。この場合、腕ではなく腰を支えるように手を回すのがポイントです。自分が急いで先へ行くのではなく、利用者の方のペースに合わせながらゆっくりと足を進めるように心がけましょう。
階段は、転倒による危険リスクが高い場所です。介助者はもしものときに支えられるよう、細心の注意を払いましょう。
階段を上る際は、後ろへふらついても大丈夫なように斜め後ろに寄り添います。反対に、降りるときは前のめりになっても支えられるように斜め前を歩きましょう。片方に麻痺がある方の場合は、麻痺のある側に立つことも大切なポイントです。
また、杖を使用する場合は、以下の順番で杖と足を交互に進めます。
このときも、声かけをしながら一歩ずつ足を踏み出すように心がけましょう。
歩行補助器具を使用するときは、まず高さや角度を利用者の方に合わせて調整します。杖であれば、ひじが30度に曲がる角度がちょうど良い高さです。歩行器は、前傾姿勢になる高さに調整しましょう。
また、補助器具がぶつかったり引っかかったりしないよう、進路に障害物がないか確認します。段差に引っかかると転倒の危険性があるため、じゅうぶん注意しましょう。
より安全に利用者の方を介助するためには、次の5つのポイントを意識してみましょう。
安全に歩行できることが利用者の方の活動範囲を広げ、自立した生活につながります。前述したように、歩行は高齢者に大きなメリットをもたらします。介護士として適切なサポートができるよう、よりよい介助のためのポイントを心得ておきましょう。
歩行補助具を使うときは、使用前後の点検が大切です。「毎日使っているから大丈夫」と思うのではなく、使用頻度の高いものほどメンテナンスを心がけるようにしましょう。
歩行補助具の定期点検やメンテナンスは、福祉用具専門相談員へ依頼するのもおすすめです。介護保険を利用して福祉用具をレンタルまたは購入した場合は、福祉用具専門相談員による定期的な点検が義務付けられています。
他職種と連携を図りながら、利用者の方が安全に補助具を使用できるようにサポートしていきましょう。
歩行介助をするときは、進路に障害物がないかしっかりと確認しましょう。特に、足元に物を置きがちな居宅内は注意が必要です。わずかな段差や電気コードにつまづく可能性も考えられます。
屋外は転倒したときのリスクが高い場所です。足元がコンクリートの場合は、転倒時の強い衝撃が考えられます。また車や自転車の飛び出しに反応できず、ふらついてしまうケースもあるでしょう。
また、下り坂やぬかるんだ道も注意が必要です。屋外の歩行介助にあたる際は、事前に危険がないかしっかりと確認しておきましょう。
歩行介助の立ち位置は、斜め後ろが基本です。前に立って歩くと、万が一のときにとっさにサポートできなくなってしまいます。
階段を上るときは後ろ、降りる時は前に立つのも安全確保のためです。「もしもふらついたら」ということを常に想定しながら介助するように心がけましょう。
介助全般がそうであるように、歩行介助も声かけが大切です。特に、杖を使った方が歩いたり階段昇降する際は、杖や足を出す順番を声をかけながら共有しましょう。
室内を移動する際も「○○へ向かって歩きますよ」と声をかけ、共通認識を持つことが大切です。介助する側とされる側が息を合わせるほど、転倒リスクを軽減できます。
歩行介助は、高齢者を介護するうえで欠かすことのできない介助です。歩くことを通し、利用者の方の健康と自立した生活をサポートできます。歩行介助は転倒の危険性もあるため、基本を大切に、周囲の危険要因にも十分注意しましょう。利用者の方に合わせた適切な介助法を知り、介護士としてより安全で快適な生活を支援していきましょう。
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