介護事業を運営するにあたって介護事故の予防はとても重要です。事故が起きるとADLの低下やQOLの低下に直結するので、できる限り事故は起こしたくないものです。しかし、事故を100%防ぐということは現実的には不可能です。
今回は事故を予防するポイントと事故が起きた時の対応についてまとめています。ぜひ最後まで読んでください。
介護事故といっても多様のケースがあり、それぞれ対処法も変わってきます。近年では、感染症も事故と考える事業所も増えてきており注目が集まっています。
介護の現場で一番多いのが「転倒・転落」の事故です。歩いていたら転倒した、車椅子からずり落ちた、ベッドから転落したなど、状況はさまざまです。転倒・転落に関しては介護職員のスキルだけでは防げない場合が多いので、どうしても件数が増えてしまうと推測できます。
最近、特に注意したいのが感染症です。数年前までは、年末から春先にかけてインフルエンザやノロウイルス、夏場には食中毒が出やすいため、それぞれに応じた適切な対策をとっていました。今では、一年を通して感染症予防に注意が必要です。
薬の対応忘れ、取り違い、過剰投与などがあります。血圧や排便のコントロールなど体調を守る薬なので、飲んでいなかったとなると一大事です。職員も本人も飲んでいると思っていても、床に落ちているなんてこともあります。
高齢になると身体は弱くなります。少しの接触で内出血ができたり、皮がめくれてしまう表皮剥離が発生してしまう場合もあります。
飲んではいけない、または食べられないものを口に入れたり飲んでしまったりする事故です。よくある事例は、ティッシュを食べてしまったというものです。
他にも「部分入れ歯を飲んだ」「トイレの水を飲んだ」「排泄物を口にした」などがあります。
介護で事故を予防するポイントを紹介します。「介護事故を100%防ぐことはできない」「起こっても最小限に留める方法を日頃から実践する」ことが大切です。この2点を押さえながら、以下の項目を見ていきましょう。
介護事故の中には、職員の注意力の不注意やうっかりで発生するものがあります。こういった事故の対策を上げる時に、「注意して行う」「しっかりと確認する」といった内容の報告書を書いてしまう方がいます。しかし、これは事故の予防には効果がありません。人間は必ずミスするもので、1日中に気を抜かずに働き続けるのは不可能です。
また、職員の意識や注意力が高くても、利用者の方の意思によってとった行動が事故につながることも多いはず。職員だけが注意深くしていても根治解決にはならないのです。手すりの設置や部屋のレイアウトを替えるなどの環境面の改善が有効な場合があります。
事故が起きた際は報告書を書くことになっていますが、その中に対策という欄が必ずあります。この対策をしっかりと考え実行することで、同じような事故は軽減できるはずです。
しかし、対策が職員の行動変容に働きかけないと、意味がありません。起こってしまった事故は変わらないのでしっかりと振り返り、定期的に評価することで、少しずつでも環境は改善していきます。
気づきはすごく大切で、高齢者を守ることにつながるのですが、ささいな情報だと共有されず、忘れ去られてしまうことがあります。
たとえば、「Aさんは野菜が嫌いと言っていた」こんなささいな会話だとその場で「そうなんですね」で終わってしまいそうなものです。
しかし、「Aさんの機嫌が悪い日は、野菜メインの献立だった」ということもあるかもしれません。
少しの情報でもたくさん共有すれば、相手の理解につながり、行動も予測しやすくなります。
事故につながりそうな、「ヒヤリとした、ハッとした」ことを簡易な報告書にまとめて、情報共有をしましょう。ヒヤリハットは書くだけではなく、対策をしっかりと考えましょう。
ハインリッヒの法則とは、1件の大きな事故の後ろには、29件の中程度の事故(打撲やずり落ち)があり、300件のヒヤリハットがあると言われています。
大きな事故とは骨折や死亡につながる事故です。大きな事故を減らすには、たくさんのヒヤリハットに気づき、対策をして1件でも多くのヒヤリハットを減らすことで、大きな事故の発生リスクを回避できます。
事故が起こった時はまず本人の状態を確認しましょう。介護職員の中には、家族連絡を第一に考える人がいますが、1番大事なのは、事故が起こってしまった利用者の方です。この流れを無視して家族に状況を伝えても、肝心な部分が伝えられないので余計に心配させてしまうことがあります。
次に、家族に連絡を入れる時の注意点は、まずは心配をかけてしまったことへの謝罪です。原因が明確にわかれば、その旨を伝え謝罪しましょう。原因が不明なまま謝ってしまうと怒りをかうだけです。
大切なのは誠心誠意謝罪することです。お互い人間ですので、すれ違いはありますが、真摯な姿勢が伝われば理解は得られることがほとんどです。謝罪には勇気が必要ですが、中途半端な気持ちでは、二次被害につながりますので気をつけましょう。同じような事故が起こらないように対策を確実に行いましょう。
前述したとおり、注意喚起のような対策ではなく、できるだけ具体的かつ実行できる内容でまとめます。たとえば、夜間帯の転倒事故に対して「夜間帯は常に本人を確認し行動を把握する」と対策を挙げたとします。
しかし、この対策には具体性がなく無理があります。この場合は「夜間帯の巡視は2時間に1回から1時間に1回にして安否確認をする」というようにすれば、他の職員も行動に移しやすく、その後の評価もしやすくなります。ポイントは数字を入れることです。
事故は起こしたくないという気持ちからNG行動をとってしまうことがあります。起こりそうな3つのNG行動について紹介します。
転倒が多い方は動き回ることが多いのが特徴です。動かなければ、転倒が起こることはほぼないはずです。そこで、行動を制限する対策を考えてしまうことがあります。これは身体拘束です。
身体拘束は介護保険の始まった2000年頃より厳しくルール化されています。しかし、知らないうちに身体拘束をしてしまっていることがあります。身体拘束の定義は、「本人が自由に動けないように行動を抑制すること」なので、この対応はどうだろうか?と悩んだ時は、「本人が自由に行動できるか」に焦点をあて、適切に判断するようにしましょう。
事故が起こったことを報告しないというケースです。介護職員の自己防衛のため、または完全に忘れていたということもあるかもしれません。しかし、どんな理由であっても事故があった事実は報告しないといけません。
事故があった時に何もなくても、数日後に腫れや痛みが出てきて、実は骨折していたなんてことはよくあります。認知症の方は特に痛みに鈍感な場合があるので、事故後は特に注意して状態を観察する必要があるのです。
報告しない、忘れていたといったことで、その方の人生に大きな影響をあたえてしまう可能性がありますので、確実に報告をあげるようにしましょう。どんな理由であれ、報告や記録がないと「隠蔽」になり、後々大きな事故を招く原因になりかねません。
前述の隠蔽に似ていますが、事故があった事実は伝えても、事故に至る経緯をごまかしてしまう状態です。このほとんどは、その場にいた介護職員になにかしらごまかしたい事実があると考えられます。認知症の高齢者に責任を押し付けてしまうようなことは非常に悲しいことです。
その後も、ごまかし続けないといけなくなってしまい、ごまかすことが当たり前になります。責任を持って、誠実に向き合うように心掛けましょう。ごまかすことがなければ、事実を伝えられるはずです。
介護の事故にはさまざまなものがありますが、全てが介護職員の責任ではありません。事故が起こると、介護職員は責任から逃れたい気持ちからNG行動をとってしまうのです。責任の所在は明確にして、介護職員の負担を減らすことも大切なことです。
どれだけ対策を講じても事故は起こるものです。たとえば、夜間帯にトイレに行く方が一人で行動して転倒してしまったというケースがあります。夜勤の職員は他の方の介助をしていて手が離せなかったという場合もあります。また本人はナースコールを押せない(ナースコールが認識できない)場合もあるでしょう。
その中で起こる転倒事故は防ぎようがないと考えられます。限られた人数で対応しているため、対応しきれないのは仕方ないことです。このような事故を完全になくすには、身体拘束や24時間の監視、利用者の方と同じ人数の職員を配置するしかないと言えます。
しかし、このような対応は不可能なので、この辺りはご家族にも理解を得ないといけません。
ご家族には上記のような事情をサービス利用前に確実に説明し、同意を得て、契約することが大切です。ご家族からすれば、大切な親族を預けるので、転倒はもちろん事故に遭ってほしくないのが当たり前です。しかし、実際の現場には、事故は誰にでも起こり、職員のスキルだけの問題ではどうしようもないことがあります。
100%の理解を得られることは難しいですが、少しでも理解を得られるように説明しましょう。
どれだけ、誠心誠意対応していても理不尽な対応をとられる方は一定数おられます。いわゆるクレーマーというものです。事あるごとに文句を言われ、時には事業所にきて大声で罵声を浴びせてくる方もいます。
少し前までは、「お客様は神様」というような風潮があり、耐えるのも仕事なんてこともありましたが、現在は大きく変わってきています。介護職員も守られる時代にきているのです。権利はしっかり主張しないと相手には伝わりません。毅然とした態度も時には必要なので、使い分けられるようにしておきましょう。
介護事故は誰もが起こしたくないものです。しかし、100%防ぐことはできないものと認識し、極力件数を減らす努力が求められています。そのためには、気づきの共有や起こった事故の対策、評価が必要です。
介護事故は対策をしたからといってすぐに件数が減るものではなく、対策後の行動が日常化していくことで、効果があらわれていきます。長期的な計画を立て実行し、振り返りながら継続することが介護事故を減らす一番の近道です。
その状況を理解してもらうことで、家族も安心して大切な親族を任せることができるようになり、信頼関係が生まれます。信頼関係があれば、理不尽な要求も減り、円滑に業務をこなせる環境ができます。
介護事故ばかりに目を向けていると、大切なものを見落としてしまうので、柔軟に対応していきましょう。
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