介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修などで耳にする「介護過程」は、介護士に欠かせない介護実践法です。本記事では、介護過程とケアプランの違いやプロセスについてわかりやすく解説していきます。これから介護を始める方、現場で働く介護士の方はぜひ参考にしてください。
介護過程はケアの道筋を示すものです。利用者の方が必要とするケアは、1人ひとり内容や方法が異なります。なぜなら、介護の大きな目的が「利用者の方の自立支援」にあるからです。
まずは、介護過程の意義を理解したうえで、具体的な勉強内容について確認していきましょう。
利用者の方に必要なケアを見極めるためには、日ごろのサービスを見直し、分析する必要があります。そのために重要になるのが、ケア内容を記した記録です。介護過程の方法に法的な決まりはないものの、多くが計画書を作成し根拠に基づいた介護を実践しています。
では、なぜあえて介護過程を意識する必要があるのでしょうか?更衣介助を例に見てみましょう。衣類の着脱をサポートする更衣介助は、すべてをサポートすれば良いわけではありません。利用者の方の今ある力を活かし、できる部分は自分でおこなえるようケアする意識が大切です。更衣介助の方法は「利用者の方ができること」や「生活するうえで必要となる目的」を見極めたうえで、1人ひとりに合わせて変える必要があります。
この認識が介護士ごとに違っていると、ケアの質にバラつきが出てしまいます。より良いケアを提供するためには、スタッフがひとつのチームとなり、共通認識を持たなくてはいけません。
そこで、介護現場では介護過程が求められます。スタッフが同じ目線で利用者の方の目標をとらえることによって、より質の良い介護サービスが可能となるのです。
介護過程は、介護の資格「介護福祉士実務者研修」の必修科目です。介護過程のカリキュラムはⅠ・Ⅱ・Ⅲの3分野にわかれています。
介護過程Ⅰでは、介護過程の基礎知識とアプローチ法について学びます。介護過程Ⅱは具体的に事例を設定し、観察ポイントや他機関との連携について学ぶのが特徴です。
ⅠおよびⅡは通信課程で学べますが、介護過程Ⅲはスクーリングに通う必要があります。これまでに学んだ内容を実践に活かせるよう、介護計画立案から実施、モニタリングなどができる力を身に付けていきます。
介護過程は、次の4つのプロセスで成り立っています。
これらは、介護におけるPDCAサイクルとも呼べるものです。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を軸に進んでいきます。
まずは、利用者の方が抱える課題を明確化させます。アセスメントの具体的な手法は、以下の3点です。
アセスメントで大切なのは、先入観を持たないことです。あくまでも客観的に、多角的な視点から状況判断する姿勢が求められます。
アセスメントで見出された課題を具体的に言語化していきます。計画立案のための計画書には、正式に決められた書式はありません。アセスメントと連動したもの、実施評価と連動したものなど事業所によってさまざまな形式が用いられています。
計画立案で大切なのは、介護士だけで内容を決定しないことです。利用者の方本人の合意を得ながら検討を進めていきます。
利用者の方にケアを提供していきます。この段階で重要視したいのは、以下の3点です。
介護過程のPDCAサイクルを回し続けるためには、ケアを実施できる職員を育てていく必要があります。また、計画に沿った支援がなされているか、随時チェックしていかなくてはいけません。毎日の記録は、次の「評価」のステップへ活かす取り組みになります。
「計画目標がどのくらい達成できているのか」「ケアでどのような結果が得られたのか」など、ケアの内容をチーム全体で評価します。このときも利用者の方本人や、家族の意見に耳を傾けることが大切です。チーム内で手ごたえを感じていても、本人や家族が満足いくものでなければ良い結果が得られたとはいえません。
評価の方法は、事業所によってさまざまな仕組みが取られています。多職種で会議を設けるほか、計画書そのものが評価につながる書式になっている場合もあります。
介護職で用いる計画書には「ケアプラン(介護サービス計画書)」と呼ばれる書類もあります。「介護過程とどう違うの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
ケアプランは、ケアマネジャー(介護支援専門員)が作成する計画書です。利用者の方にあわせた介護サービスの種類や内容を細かく記載します。介護サービスはケアプランに沿って提供されるものであり、ケアプランにないケアをおこなうことはできません。
つまり、介護過程の計画はケアプランを軸に進められることになります。それぞれが連携しあうことで、より良い介護につながることを覚えておきましょう。
介護過程を施設内で展開するためには、計画を活かすための仕組みやルール作りが大切です。記録を情報共有できる仕組みを作れば、スタッフ全員が共通認識をもってケアにあたれます。
また、経営者や管理者側が介護過程に対する意欲を持ち、現場へと働きかける意識も大切です。介護過程を理解し、適切に展開できる人材の育成に取り組む必要もあります。
これから介護過程に取り組もうというときは、今現在施設が抱える問題と紐づけて捉えてみるのもおすすめです。問題の解決策のひとつに介護過程を置くことで、新たな取り組みもよりスムーズに導入できます。
実際に介護過程に取り組んだ施設は、さまざまなメリットを見出しています。いずれも施設の課題に目を向け、独自の取り組みを展開していることが特徴です。
埼玉県の特別養護老人ホームは、介護過程導入において看護職のPNS制度を採用しました。PNS制度とは、ペアで患者を受け持つ看護法です。同施設では介護士が2人1組で居室を担当。それぞれの意見をすり合わせ、相違点が大きな場合はチームカンファレンスで再検討をおこないました。
ペアでケアに取り組むことでケアが均一化され、ケアの質の維持向上へとつながりました。また、スタッフに責任感と達成感が生まれたというメリットも得られています。複数名でのカンファレンスやフォローアップが人材育成につながり、離職率の低下いう実績も生み出しました。
埼玉県の介護老人保健施設は、以前から個別ケアの推進に取り組んでいた施設です。そのうえで、ケアの目標と利用者のニーズを把握する必要性を感じていました。介護過程を取り入れるにあたり作成したのが、記入しやすく、わかりやすい個別介護計画書です。この計画書には、計画と評価の機能が1つにまとめられています。
個別計画書には「食事」「排せつ」「清潔」などの項目ごとに、留意点と変更点を記載するスペースが設置されています。一目でみて評価がわかるよう、「〇」「✕」の項目があることも特徴です。計画書の内容は、毎日15分開催される多職種カンファレンス時に活用されました。
チーム全体で情報共有することで、お互いが得意、不得意とするケアについての理解が深まりました。相互的に知識や技術の向上を図り、結果的にケアの標準化へとつながっています。スタッフの指導や育成の場面でも同様です。計画書の内容が指導に役立ったという声もあがっています。
東京都の介護老人保健施設は、介護過程の導入にあたりR4システムを導入しました。R4システムとは、同施設が独自に開発したケアマネジメントツールです。各専門職が作成するアセスメント表や計画書はITで一括管理し、他職種がいつでも閲覧できる状況になっています。
日々の介護記録は、PC上でケアプランチェック表に入力していきます。内容は他職種とのモニタリングや再評価に活用されました。
ケアの目標や支援内容を把握しやすくなり、各専門職間での認識のズレが少なくなりました。IT管理することで、手書き作業の負担が減ったことも大きなメリットです。残業時間が短縮され、職員に気持ちのゆとりが生まれました。気持ちと時間のゆとりは、質の高いケアの提供へとつながっています。
また、同施設はIT化導入にあたり、PCが苦手な職員への研修も実施しています。どうしてもIT化できない部分は、手書き対応を残しました。
忙しい介護現場ですべてを新しく切り替えることは、職員の負担になる可能性もあります。同施設のように、職員のスキルやニーズに寄り添う柔軟な方法も、メリットを生んだ要因のひとつといえるでしょう。
【参考】厚生労働省「介護過程実践事例集」
介護の目的は利用者の方の自立支援です。自立支援に向けた具体的な目標や取り組みは、利用者の方それぞれです。介護過程は、利用者の方に合ったケアを明確化するものです。各スタッフが共通認識を持ってケアにあたるために欠かせないものだといえます。
介護過程の具体的な取り組み方は、決して一律ではありません。各事業所が抱えている課題や理念に目を向けながら、より良い方法を検討していきましょう。
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