「科学的介護」は近年注目を集めている新しい介護のかたちです。現場で働く介護職の方も、科学的介護という言葉を耳にする機会があるかもしれません。本記事では科学的介護についてわかりやすく解説します。
情報データベース「LIFE」の詳細や、科学的介護のメリット、介護ソフトとの関係もぜひ参考にしてください。
「科学的介護」とは科学的な裏付けに基づく介護のことです。1990年以降、医療分野では「エビデンス(根拠)」に基づく医療がおこなわれてきました。
一方、介護分野ではエビデンスのある介護が実践されておらず、2017年(平成29年)に有識者による検討会がスタートします。そして同年にエビデンスを蓄積するためのデータベース「VISIT」の運用が開始されました。
2020年(令和2年)には、科学的介護の実践を目指すデータベース「CHASE」の運用がスタート。2021年(令和3年)には「VISIT」と「CHASE」の一体的な運用に向けた「LIFE」が誕生し、4月1日より運用が始まっています。
「LIFE(ライフ)」は科学的介護情報システムを意味する「Long-term care Information system For Evidence」の頭文字を取った名称です。「VISIT」と「CHASE」を統一した「LIFE」の活用は、PDCAサイクルの推進とともにケアの質の向上を目的としています。
また令和3年度には科学的介護推進体制加算が新設されたことから、介護業界では科学的介護への注目が高まりをみせています。
PDCAサイクルとは、「PLAN(計画)」、「DO(実行)」、「CHECK(評価)」、「ACTION(改善)」の頭文字を取ったものです。LIFEを使ったPDCAサイクルの具体的な内容は、以下のように考えられています。
PLAN(計画) | 介護サービスの計画書を作成する。 |
DO(実行) | 計画書に基づき、介護サービスを実施する。 |
CHECK(評価) | 利用者の方の状態やケアの内容を記録、入力、評価しデータとして提出する。 |
ACTION(改善) | LIFEからのフィードバックをもとに、計画書の改善を図る。 |
全国の介護施設や事業所から提出されたデータは、LIFEで収集・蓄積されフィードバックとして計画書の改善に役立てられます。PDCAサイクルを循環し、ケアの質の向上へとつなげることがLIFE活用の大きな目的です。
LIFEを活用すれば、従来のようにスタッフの経験やスキルだけに頼るのではなく、科学的なエビデンスにより良いサービスが提供できると考えられています。
令和3年度の介護報酬改定により、LIFEを活用した「科学的介護推進体制加算」が新設されました。実際にLIFE活用等の加算を算定するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
LIFEの活用が要件として含まれる加算は、以下のとおりです。実際には、加算対象の詳細は施設形態によって異なります。また、提出する計画書データの様式も加算対象により異なるため、事前にしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
介護施設や事業所が科学的介護を導入するメリットには、以下の3点が挙げられます。
従来の介護サービスの多くは、スタッフの経験やスキルによって評価され改善されてきました。科学的介護を導入すれば、スタッフのスキルに科学的根拠という裏付けが加わり、さらなるメリットを生むことができるでしょう。
科学的介護の導入は利用者の方の自立支援につながるというメリットがあります。介護サービスは身の回りのサポートをするだけでなく、自立した生活を送ることができるよう支援するためのものです。あいまいな情報ではなく、科学的なエビデンスに基づく科学的介護を取り入れることは、利用者の方の自立を促し、介護の重度化を防ぐと考えられています。
また、LIFEのフィードバックをもとに計画書を改善すれば、各スタッフが共通認識を持ってケアを提供できます。業務の効率化にもつながり、自立支援に向けたケアの統一化を図ることができるでしょう。
科学的介護で利用するデータベース「LIFE」には、全国の介護施設や事業所からのデータが蓄積されます。そのため、より多くのデータをもとにしたフィードバックを参考に、質の良いケアを提供できることもメリットのひとつです。
人手不足の介護現場では、後輩職員への指導や教育に手が回らないケースも見受けられます。科学的介護を導入すれば、経験の浅い介護職員も、膨大なデータをもとにしたフィードバックをもとにケアを改善し、実践へと活かすことが可能です。
科学的介護の導入は利用者の方にもメリットをもたらします。科学的な根拠をもとに計画書を作成することで、利用者の方が介護サービスを選択しやすくなるからです。
利用者の方は介護スタッフの経験や事業所の主観ではなく、客観的なデータをもとに事業所や介護サービスを選択できます。超高齢化により介護サービスが多様化するなか、多くの人にメリットをもたらすといえるでしょう。
科学的介護を導入するためには、データベースであるLIFEが必要です。すでに介護ソフトを利用している場合は、LIFEへのデータの提出方法が異なるため注意しましょう。また介護ソフトを利用せず、紙の書類で管理している事業所もLIFEの利用は可能です。あらかじめ詳細をチェックし、スムーズな運用を目指しましょう。
LIFEを活用するためには、インターネット環境が必要です。まずは、LIFEのWebサイトから利用申請をおこない、IDとパスワードを取得しましょう。以前VISITを使用していた場合は、アカウントを引き継ぐことも可能です。
新規開設事業所の場合は、事業所情報が都道府県または市町村に登録されている必要があります。事業所情報は申請した月のおおむね3ヶ月後にLIFEシステムに登録されるため、あらかじめ詳細をチェックすることをおすすめします。
LIFEの新規利用申請は、毎月25日が締日です。申請手続きをおこなうと、翌月の初めまでに利用案内がFAXにて通知されます。また利用前にはインターネットオプションの各種設定が必要です。細かな操作手順は、厚生労働省のWebサイト『LIFE』で確認できます。
LIFEへのデータ提出方法は、利用している介護ソフトによって異なります。LIFEとデータ連携しているソフトを導入している場合は、CSVファイル形式でデータを出力し、LIFEに取り込むことで提出が完了します。
利用している介護ソフトが未対応の場合は、LIFEの画面を使ったデータ入力が必要です。介護ソフトを使わず紙の書類で管理している場合は、データを入力したうえで加算の算定に必要な様式を印刷できます。
科学的介護は運用開始から間もない取り組みです。しかし超高齢化が進む介護現場では、エビデンスに基づく介護の必要性が高まりをみせています。
科学的介護はサービスを利用する高齢者に大きなメリットをもたらします。また介護現場では業務の効率化とともに、質の良いケアの提供を実現できます。新たな介護のかたちとして、科学的介護の導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
(c) 2025 LIKE Staffing, Inc.