高齢化が進む一方で、介護業界の人材不足は深刻な社会問題ですが、改善の兆しはいっこうに見えません。
公益財団法人介護労働安定センターが行なった令和2年度介護労働実態調査によると、人材不足を感じている介護事業所の割合は6割にのぼることが分かっています。介護人材の不足は介護業界だけの問題ではなく、将来老後を迎える私たちに関わる問題でもあります。
この記事では、介護業界の人材不足の原因と介護事業所や政府が行なっている対策について考察します。
【参考】令和2年度介護労働実態調査
介護業界の人材不足にはさまざまな原因があります。中でも大きな割合を占める原因は下記のとおりです。
ひとつ目の原因は重労働な割に待遇が見合わないというネガティブなイメージが強いことです。介護の仕事は「きつい」・「汚い」・「危険」に「給与が安い」を加えて4Kと言われています。
コロナ禍で打撃を受けた他業界から介護業界への人材流入が期待されましたが、思ったような変化は見られませんでした。やはり「介護従事者だけはやりたくない」といったネガティブなイメージは拭いきれていないようです。
待遇面でも厚生労働省の令和2年度介護従事者処遇等調査結果にて、正社員の介護従事者の平均年収は350万円となっており、同年度の日本の平均年収433万円を大きく下回っているのが現状です。
ニュースで度々報じられる介護施設での事件も、介護業界に対する世間のイメージをいっそう悪くしているといえるでしょう。
介護業界の人材不足の原因は求人応募が少ないことだけではありません。介護事業者の採用基準が高いことも人材不足の原因となっています。人手が足りないからといって誰でも良いわけではないからです。
未経験者を教育する時間が確保できないため、採用側は即戦力となる人材を求める傾向が強くなっています。
しかし、経験者の中途採用でもまともに教育を受けることもなく現場に入れられ、将来性に不安を感じて離職に至るケースも少なくありません。
せっかく採用してもすぐ辞められると困るので、応募者の履歴も厳しくチェックされます。ただでさえ母数が少ないうえに、採用基準の高さが人材集めをいっそう難しくしています。
厚生労働省が2021年に公表した社会福祉施設等調査によると、全国の都道府県の指定都市、中核市での有料老人ホーム数は年々増加傾向にあることが明らかになっています。
コロナ禍の影響で一時的に雇い止めはあったものの、2021年2月の有効求人倍率は3.55と依然として高水準で推移しています。
つまり施設に不満があって転職したとしても、介護福祉士の所持者は売り手市場で人材の取り合いが起きているのが現状です。
したがって労働環境の良い介護施設に人材が集中し、そうでない施設では離職が絶えず、人材不足が慢性化しているのです。
【参考】
厚生労働省 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート)(令和4年2月分)
介護従事者の人材不足の原因としてなり手が少ないことが挙げられますが、近年の介護従事者の人数は増加傾向にあります。
ではなぜ人材不足が生じているかというと、要介護状態の高齢者の増加率が介護従事者の増加率をはるかに上回っているためです。
厚生労働省「今後の高齢者人口の見通し」によると、2042年以降に高齢者数が減少に転じると推測されていますが、今から20年も先の話です。
少子高齢化は人口構造上の問題のため、簡単に解決できる問題ではありませんが、間接的に介護業界の人材不足を深刻にする要因となっています。
介護人材の不足が続くと、介護施設の内部だけでなく私たちの生活にも大きな影響を及ぼします。
共働きが増加した現代では、要介護状態の家族を介護施設に預ける家庭が一般的です。もしも家族を預けられる介護施設が見つからなかった場合、自宅で介護をすることになります。
しかし、仕事や家事をしながら介護をするのは肉体的にも精神的にもかなり大きな負担です。もし外出の予定があっても、「もしものことがあったら」と常に不安がつきまとうことになるでしょう。
人材不足の介護施設では、介護従事者の負担が増大します。というのは、利用者の方に対する日々の介護サービスはあらかじめケアプランで決められているため、事業者は漏れなく提供する必要があるためです。
さらに現場で離職者が出ると空いた穴を残った職員でカバーしなければならず、無理なシフトや残業などでさらに負担が増えます。
人材不足が解消しない限り、サービスの質は低下し、介護従事者の不満が溜まってさらに離職者が出る恐れがあります。
人材不足の問題を解消するには、介護従事者の負担を軽減するために労働環境の改善が喫緊の課題です。
2025年問題とは、団塊世代が後期高齢者となって国民の4人に1人が75歳以上となり、介護従事者が大幅に不足する問題のことで、約38万人の介護従事者が不足すると言われています。
労働人口の減少が続いている中で、この数字は絶望的です。ただ2025年問題は以前から危惧されていた問題であり、国も介護事業所も対策を進めています。次の章で具体的な対策について解説します。 介護業界の人材不足問題に対して、政府や介護事業所は下記の対策を講じています。 政府の政策として進められているのが、外国人労働者の雇用です。EPAや技能実習、特定技能ビザなどの制度により、介護事業者の外国人労働者受け入れが可能となりました。 ただし、外国人労働者の雇用には受け入れの条件があるため、自分の施設が下記の条件を満たしているか確認が必要です。 特定技能所属機関は、「介護分野における特定技能協議会」に対し、必要な協力を行うこと 高齢化率世界一位で介護先進国の日本で介護技術を学べるのは、高齢化率がまだ低い東南アジアの外国人労働者にとってメリットが大きく、介護人材を求める日本の介護事業者とはwin-winの関係にあるといえるでしょう。 ICT化により、紙ベースで行われてきた書類や伝票をデータで管理できるようになり、作業負担の軽減につながります。データの検索や集計、シフト管理などはシステム化した方が圧倒的に効率的です。 今までデスクワークにかかっていた作業時間を削減し、介護サービスなど人の手でしなければならない業務に集中できるのはICT化のメリットです。 介護業界は他産業と比べてIT分野が遅れている印象がありますが、人材不足の課題を解決するためには積極的に取り入れるべきでしょう。 10人くらいの利用者の方を決まったメンバーでケアを担当するユニットケアの導入も介護人材不足に効果が期待できます。職員が決まった利用者の方を担当することで、フロアの移動がなくなり利用者の方の見守りが容易になるので負担の軽減につながるためです。 利用者側からしても、時間の制約がなく、ある程度自由がきく上に手厚いケアが受けられるメリットがあります。 介護従事者の処遇改善のため、政府は2019年に勤続10年以上の介護福祉士に8万円支給し、2022年2月には介護職員に対して一律9,000円支給することを決めました。それでも日本の平均年収にはまだ遠く及ばず、効果は十分とはいえません。 待遇の改善も大事ですが、職場に相談窓口が設置されている事業所では窓口のない事業所と比べて不満を感じている職員が少なく、離職率も低いことが分かっています。 【参考】公益財団法人介護労働安定センター「介護労働の現状について(令和元年度 介護労働実態調査の結果と特徴)」 このことからも労働環境の改善が人材流出の歯止めになることは確かです。 超高齢社会の中、ビジネスチャンスを求めて介護事業に新規参入する企業が増えています。介護施設のニーズはますます高まっていくと予想されますが、いくら介護施設が増えても介護従事者が不足していれば経営を続けていくのは困難になります。そのため、新たな人材獲得と同時に離職を防ぐことが必要です。 人材不足の原因を把握し、介護事業者として必要な対策を取っていくことが今後不可欠になるでしょう。
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