介護における利用者の生活の質を考えるなかで、”QOL”や”ADL”という言葉を聞いたことがあるけど具体的にどういうことなのか、関連性について考える人は少なくはないでしょうか。
今回、QOLについて解説をするなかで、ADLとの関係性やQOLを介護実践でどういう方法で向上することができるのかを紹介していきます。
まず、QOLの定義を紹介します。
QOLと介護の関係性のなかでQOLが低下することで発生する問題について解説していきます。
QOLは”Quality Of Life”(クオリティ オブ ライフ)の頭文字をとったものです。
一般的には「生活の質」や「人生の質」を説明する時に用いられます。
QOLは人の人生や生活に関わる質について、人それぞれにある幸せ・満足に関する基準がどのようなものかということを考えます。
介護とQOLの関係については、介護サービスの利用者一人ひとりが必要としている人生や生活の質に関わる幸せ・満足を、利用者がどれくらい感じることができているのかということになります。
具体的には、「介護者が利用者の個々のQOLを向上するような介護ができているのか」、「個別の支援ができているのか」、ということが求められるのです。
介護現場ではQOLとの深い関連性があるということを知っておきましょう。
QOLは大きく3つの側面が関係し、互いに影響をし合っています。
3つの側面を細分化すると、5つの要素がQOLに大きく影響しているといわれています。
これらの要素に関する状態が良くない場合は、QOLが低い状態になります。
とくに、高齢者でQOLが低下してしまうと身体機能の低下とストレスによる精神的な悪影響を及ぼす可能性が高くなり、日常生活に支障がでることになるでしょう。
【参考】『総論-QOL の概念と QOL 研究の重要性』 土井由利子 国立保健医療科学院疫学部 2004
QOLに関して、日頃の介護実践で活用できる測定方法について紹介します。
QOLは利用者一人ひとりに関わることになるので、一人ひとりによって持っているQOLの質や内容は変わります。
決められた方法で介護を実践するだけでなく、利用者一人ひとりのQOLを尊重した個別支援が必要です。
客観的にQOLを測定することで、介護者全員が利用者一人ひとりの求める個別支援を認識でき、実践につなげることができます。
QOLの測定法として、SF-36があります。
SF-36は、36の質問に答えることでQOLの状態について、下記の8つの領域でどこに課題があるのかを点数化し、客観的にQOLをできます。
配点は0~100点の範囲で得点が高いほどQOLが高い状態です。
以下が8つの領域で、課題別に測定結果を見ることができます。
【参考】SF-36v2日本語版 – SF-36|Qualitest株式会社
QOLを測定することで、利用者のQOLに関する状況を客観的に見ることができます。
利用者一人ひとりの課題を課題別に可視化できるので、利用者が求めているニーズを知る機会につながります。
また、介護職だけでなく、さまざまな職種の人たちへの情報共有が的確にできるようになり、連携して支援することができるでしょう。
ここでは、ADLとQOLとの関連性について紹介するうえで、QOLを意識することがなぜ大切なのか、考え方について解説していきます。
ADL (Activities of Daily Living)は日常生活を送るための基本となる身体動作です。
ADLに該当する身体動作の内容は以下です。
【参考】一般社団法人 日本老年医学会 Barthel Index 基本的ADLの質問票
また、ADLを応用した動作として、日常生活で実際に行う動作であるIADL(Instrumental Activities of Daily Living)があります。
IADLに該当する身体動作の内容は以下に分類されます。
【参考】一般社団法人 日本老年医学会 Lawton 手段的ADLの評価尺度
ADL/IADLは利用者の身体的機能に関する自立を測る指標として用いられています。
QOLは精神的な健康に関わる、人生や生活に関わる質について客観的に測ることができる指標です。
ADL/IADLに課題があるということは日常生活に関わる行動に支障がある状態であり、自立して行動したくても思うようにできない状況です。
ADL/IADLに課題がある状況は、QOLにも影響を与え、生きがいや生活に関する満足度が低下してしまうということにつながる場合が多くなります。
つまり、ADL/IADLとQOLは互いに密接に関わっており、ADL/IADLが低下するとQOLが低下する、QOLの向上がADL/IADLの維持・向上につながるということになります。
QOLを向上する考え方として、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health/国際生活機能分類)という考え方があります。
ICFはWHO(世界保健機関)で2001年5月に採択された、人間の生活機能と障害に関する分類法です。
人の健康について考える時に、身体機能や疾患等といったADL/IADLを部分的に見て生活を考えるのではなく、その人が抱く生きがいや環境等、QOLに関わる内容を含んださまざまな視点から捉えて支援をすることが大切であるという考えになります。
QOLの向上及びADL/IADLの維持・向上を目指して支援をする場合にはICFの考え方を理解しておくことが、専門性を高めることにつながります。
【参考】厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部企画課「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
利用者のQOLを向上するために必要な介護実践について紹介します。
QOLを向上するためには、一人ひとりの利用者が持っているQOLを知るところから始めましょう。
QOLを知ることで、利用者が持っているニーズや課題を知ることにもつながります。
QOL を客観的に評価できる測定法であるSF-36も活用しながら、利用者との関係を作っていきましょう。
【参考】SF-36v2日本語版 – SF-36|Qualitest株式会社
介護者の効率化や負担軽減のために、利用者ができることまで介護者が行なってしまうことは利用者のQOLの低下、ADL/IADLの低下を導く可能性があります。
利用者の自立を支援するために、見守ること、利用者が希望する方法での支援を行うこと(例:車椅子を使用するよりも杖を使用して自分の足で歩きたい等)が、利用者の生きがいにつながり、QOLの向上、ADL/IADLの維持・向上になることが期待できます。
利用者の自立した生活を支援するために介護職がいるという意識付けを、日頃から心がけてみましょう。
利用者に関わる支援のなかで、支援者が決めて取り組みをするのではなく、取り組みを決める時に利用者に関わってもらうことが生きがいにつながる取り組みの実現、QOL向上につなげることができます。
さまざまな人たちと多種多様内容方法でつながることは利用者にとっての刺激になり、QOLの向上のためには大切な機会になります。
QOLは利用者の人生における「生活の質」や「人生の質」であり、QOLの向上がADL/IADLでの身体機能の維持・向上につなげることができます。
一人ひとりの利用者が持っているQOLを尊重した介護実践が、利用者の生きがいや満足につながるだけでなく、介護職で働く人たちの専門性の向上や働く意欲にもつながってくることを心に留めておきましょう。
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