介護士の職業病として知られている腰痛について、症状が出てから予防法や対処法について悩んでしまうという方も少なくないのではないでしょうか。
今回、腰痛に関する原因や予防方法、対処法について紹介していきます。記事を通して、介護士として働くなかで腰痛とどのように向き合うのがよいかを学んでいきましょう。
まずは、腰痛の症状や症状がでる要因について紹介していきます。
腰痛は病気の疾患名ではなく、身体に出る症状を指します。腰痛は「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」に分類できます。
医師の診察、X線やMRI等による画像検査で原因が特定できる腰痛です。特異的腰痛は以下の症状が該当します。
痺れや麻痺などの背骨の神経の圧迫により症状が出る腰痛
内臓疾患が影響して症状が出る腰痛
など
特異的腰痛のように医師の診察や画像検査で原因を特定できない腰痛が非特異的腰痛に該当します。腰痛の大半は非特異的腰痛によるものとされています。
非特異的腰痛のなかには、急性の腰痛であるぎっくり腰、女性特有の原因である妊娠や生理等による腰痛、運動不足や喫煙等の生活習慣が影響して起こる腰痛等があります。特に、職場環境による腰痛の発症は労働災害全体の6割以上を占めているとされています。特異的腰痛は回復するまで治療を継続する必要性がありますが、非特異的腰痛はセルフケアができていれば治療せずに回復もできます。
しかし、セルフケアをしないで症状を放置する状態が続くことやストレス等の影響により症状が長期化し、医療機関での治療が必要になる場合もあります。
【参考】第一三共ヘルスケア くすりと健康の情報局 腰痛の原因
腰痛が起こりやすい要因として、動作的要因、環境的要因、個人的要因、心理的・社会的要因があります。具体的には以下のように分類できます。
以上、紹介した4つの要因が個々の要因で腰痛を引き起こす可能性があるだけでなく、さまざまな要因が絡み合って腰痛の発生要因になることがあります。
介護士の職業病といわれている腰痛が介護とどのような関係があるのか、介護方法から解説していきます。
人間は直立二足で行動するため、身体を垂直に保ち、重い上半身を下半身で支える必要があり、背骨や腰に大きな負担がかかることになります。直立二足で姿勢を保つためには、背骨と背骨の間にある椎間板や腰を支える筋肉が必要です。
椎間板や腰にダメージがあると姿勢を保つことに支障が出て、腰痛の発生につながります。動作的要因のなかで、介護の仕事で腰痛になる場面を紹介します。
移乗介助による抱えて持ち上げる動作
介護士が長時間にわたり介護で動き続けているような、立ったまま、座ったままの姿勢を続けることは股関節やその周辺にある筋肉の柔軟性が失われてしまうことにつながるため、腰に負担がかかります。
腰痛が慢性化してしまった時に介護士が活用できる制度である労災認定について紹介します。
労災認定とは通勤・業務中に発生した怪我や病気に対する補償の制度です。労災認定を申請することで、治療費の負担(療養補償給付)や休業時の給与の補償(休業補償給付)を受けられます。
労災認定を受けるためには、医師による診断書が必要になります。診断書があれば労災認定を確実にされるということではありませんが、労災認定の可能性があれば受診して医師に相談するなかで診断書を書いてもらいましょう。労災認定の申請窓口は労働基準監督署になります。
事業所が労災認定の申請を認めていなくても自己の判断で申請できます。労災認定の申請は労働者の権利ですので、申請を迷っている場合、申請方法については労働基準監督署に相談してください。
【参考】厚生労働省 腰痛の労災認定
介護士として腰痛を未然に予防できる方法と腰痛になった時の対処法について紹介します。
介護士自身の身体、腰に負担がかかりにくい姿勢や動作を身につけることで腰痛予防につながります。具体的には以下の方法があります。
足幅を肩幅くらいまで広げ、膝を曲げて腰を落とすことで重心を低くします。要介護者の身体を抱き起こす際に活用できます。腰を曲げて前かがみになると、腰に負担がかかります。
要介護者の移動の際に身体を支える時、介護士と要介護者の身体を近づけて密着させることで密着した部分を活用して負担が少ない力で移動できます。
腰を捻る動作を少なくするような工夫が腰痛予防につながります。
長時間の介護等で立ち仕事が続く時は適度なタイミングで休憩を取ることが腰痛予防で大切です。同じ体勢が続く動作がある時は、違う体勢に変えることも腰痛予防の対策になります。
立ち仕事ばかりでなく、座ってできる仕事を合間に入れる等の自分自身の働き方の調整を日頃から考えることも腰痛予防に大切になります。
介護士が力技で介護をすると、要介護者の持っている力を引き出せないうえに、介護士の身体の負担が重くなりよいことがありません。
要介護者ができない部分を介護士の介護を通じて要介護者の力を引き出すことが介護士の姿勢として大切になります。要介護者が持っている能力を把握し、要介護者が自身でできることは動いてもらう、要介護者の動きに合わせて動くことが要介護者の自立につながるだけでなく、介護士の負担軽減にもなります。
介護業務に入る前や休憩時間を活用して身体の血行をよくする、腰や背中や脚などの周りの筋肉の緊張や凝りをほぐすストレッチをすることは腰痛予防には大切です。
ストレッチを意識付けできるように、個人でのエクササイズだけでなく、事業所としての腰痛予防の取り組みを企画・参加するのも効果的です。
腰痛の要因として、人間関係や介護業務による心理的なストレスが原因となることがあります。
日頃の人間関係や介護業務から気持ちを切り替えて気分転換をすることがストレスの軽減だけでなく、心理的な要因による腰痛予防にもつながることになります。
介護士が動きやすい環境を整えることが大切です。腰痛予防につながる環境整備として、以下の内容があります。
要介護者を介護する時に、介護士が福祉用具・機器を活用することで介護に係る負担を軽減でき、腰痛予防につなげられます。
何らかの事情により、福祉用具・機器が使えない場合で負担が重くなる介護業務は1人で担おうとしないで2人以上の介護士で協力して行うようにしましょう。
腰痛を感じた場合は早期に医療機関への通院・治療をするようにしましょう。症状を放置すると、腰痛が慢性化してしまい回復が難しくなることがあります。
腰痛がある場合は、腰痛ベルトやコルセットを活用して腰への負担を軽減させるようにしましょう。腰痛ベルトやコルセットは腰痛予防として常時活用していると腰の筋力を低下させてしまう場合があるので、腰痛がある場合のみの使用をお勧めします。
使用の際には事業所に所属している産業医や通院先(整形外科等)の主治医と相談しながら自分自身に合ったものを使用するようにしましょう。
腰痛を抱えながら介護をすることになる場合は、今までの自身の介護業務、働き方を振り返るなかで環境の整備についての検討や従事する介護業務の調整を事業所と行うことが大切です。
事業所や主治医と相談しながら取り組んでいきましょう。
腰痛を抱えながら働くことが難しい、日常生活に強い支障が出る場合は休業して身体を休め、治療に専念するのも大切です。事業所、主治医や労働基準監督署と相談しながら労災認定を申請して休業、復帰に向けて取り組むことが今後の腰痛の重症化・慢性化を防ぐことにもつながります。
介護士の腰痛の程度に合った介護度の施設に転職を検討するということが、自身の腰痛と付き合うための選択肢のひとつになることがあります。
介護度が高い人の割合が多い、特別養護老人ホームや介護老人保健施設での仕事ではなく、介護度の低い人が多いサービス付き高齢者向け住宅やケアハウスに転職するのも腰への負担軽減につながる場合があります。
腰痛には特異的腰痛と非特異的腰痛があり、腰痛が起こりやすい要因として、動作的要因、環境的要因、個人的要因、心理的・社会的要因が関係しています。介護士として働くなかで要介護者の力を尊重した介護をすることが介護士の腰痛に関わる負担軽減や予防につながります。
日頃からの予防によるセルフケアでの対処が難しい場合は医療機関での治療や労災認定による休業制度の活用、介護環境や働き方の見直しを積極的に行って、腰痛と向き合いながら介護士として働く取り組みをしましょう。
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