こんな疑問はありませんか?
介護士を目指している方の中には、どれだけ残業がおこなわれているのか気になる方もいらっしゃるでしょう。そこで当記事では、介護職のサービス残業の実態を全国労働組合総連合が発表している「介護労働実態調査 報告書」を参考に、残業時間の実態を紹介します。
さらに他の業界と比べて残業時間が多いのか、実際にサービス残業を強いられたときの対処法についてまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
介護職員の残業時間の実態について見ていきましょう。内容は、全国労働組合総連合「介護労働実態調査 報告書(2018年10月1日~2019年1月31日調査)」を参考にしています。
【1ヶ月の時間外労働時間】
平均時間外労働(時間) | |
正規職員 | 10.2 |
非正規(フルタイム) | 5.3 |
非正規(フルタイム以外) | 2.0 |
派遣など | 2.7 |
嘱託など | 8.0 |
その他 | 9.0 |
時間外労働が「ない」と答えた方は32.3%でした。約7割の方が時間外労働をしていることが分かります。また、「介護労働実態調査 報告書」によると、時間外労働があると回答した人の中で一番多かったのは「5時間未満」22.7%でした。平均の時間外労働は全体で8.2時間、雇用形態別では正規職員員が一番長く、10.2時間です。
次に、給料が支払われていない「不払い残業時間」について見ていきましょう。
【不払い残業時間】
時間 | (%) |
0 | 75.0 |
5未満 | 8.8 |
5~10未満 | 6.7 |
10~15未満 | 4.2 |
15~20未満 | 1.4 |
20~25未満 | 1.7 |
25~30未満 | 0.4 |
30~35未満 | 0.4 |
35~40未満 | 0.3 |
40~45未満 | 0.5 |
45以上 | 0.6 |
不払い残業がないと答えた人は75.0%で、4人に1人が不払い残業をおこなっていることが分かりました。なお、この調査は労働組合がある事業所を対象にしているため、今回の結果以上の不払い残業が横行している可能性があります。
介護職員の残業時間が多い理由には以下の5つの点が考えられます。
ここではそれぞれの詳細を解説していきます。
介護職員の残業時間が多い理由のひとつに人手が足りない点が挙げられます。足りない分を職場にいる人員だけでおこなう必要があります。現在は人手不足に悩む施設や事業所が増えており、残業が増えてしまっているのが実態です。
公益財団法人介護労働安定センターによる「令和3年度 介護労働実態調査」によると、介護事業所全体における人材の過不足状況は、「大いに不足」は8.5%、「不足」は21.5%、「やや不足」は33.0%と、6割以上の事業所で人手不足を訴えています。
次に記録や書類作成の時間がかかる点も挙げられます。介護職員がおこなう仕事には、利用者のトイレ・入浴・食事の準備や介助・片付けといったさまざまな業務があります。他にも利用者の記録や書類作成が必要です。
近年、時間短縮などの観点から書類作成をデジタル機器でおこなう事業所が増えました。介護記録を手書きでおこなっていると、誤字脱字や、人によっては文字に癖があり、転記ミスが発生する可能性が考えられます。
一方、デジタルは手書きよりも打ち込みに時間がかかってしまうケースがあり、職員自体がIT機器の操作に慣れる時間が必要です。どちらを利用しても、記録や書類作成には時間がかかってしまいます。
介護職の仕事には利用者への介護、書類作成以外にも、委員会活動や研修といった仕事もあります。委員会活動や研修も、人手不足により勤務時間内に組み込まれていないケースが多いです。
そのため、始業前や休み時間、終業後におこない、残業になってしまっています。
利用者の急変(急な体調変化)が起こった場合、時間内に業務を終えられず、長引いてしまうケースがあります。また、家族への対応が勤務時間内に取れず、残業になってしまうケースもあるでしょう。時間外に利用者の家族から電話があるなど、対応することで残業になってしまうこともあります。
職場の風潮として「残業が根付いている」もしくは「定時で帰りにくい雰囲気がある」ことも理由のひとつです。例えば、周りに残業している職員が多いと、なかなか帰りづらく感じてしまい、残業してしまう人もいるでしょう。
残業が当たり前になっている職場だと働きづらいと感じて退職者が増えてしまうリスクがあります。退職者が続くと、残った職員の仕事が増え残業が増えるという悪循環に陥ってしまいます。
介護職員の残業時間の実態がわかりましたので、ここからは他産業と比べてみましょう。
【業種別残業時間】
《一般労働者》
業種 | 平均時間外労働(時間) |
運輸業、郵便業 | 25.3 |
情報通信業 | 16.2 |
電気・ガス業 | 15.1 |
製造業 | 15.0 |
建設業 | 14.5 |
金融業、保険業 | 12.9 |
卸売業、小売業 | 10.8 |
飲食サービス業等 | 9.7 |
医療、福祉 | 6.3 |
《パートタイム労働者》
業種 | 平均時間外労働(時間) |
運輸業、郵便業 | 5.9 |
製造業 | 4.8 |
情報通信業 | 2.9 |
卸売業、小売業 | 1.9 |
金融業、保険業 | 1.7 |
電気・ガス業 | 1.6 |
飲食サービス業等 | 1.5 |
建設業 | 1.4 |
医療、福祉 | 1.1 |
上記データを見てみると、医療・福祉業界の残業時間は一般労働者、パートタイム共に他の産業と比べて一番少ないことが分かります。
出典:厚生労働省 「毎月勤労統計調査 令和3年度分結果確報 第2表 月間実労働時間及び出勤日数」
残業の中には違法になるものがあります。違法につながる残業の内容を知っておけば自身を守ることができます。違法になる残業は以下の3つです。
ここでは詳細を見ていきます。
契約している労働時間を超えている場合は違法になります。労働基準法で、労働時間は1日8時間・1週40時間と定められています。この労働時間を超えて残業や休日勤務をおこなう場合は、36協定の締結と届出が必要です。
36協定とは「時間外・休日労働に関する協定届」のことで、協定を締結すれば月45時間・年360時間の時間外労働が認められます。36協定には細かな条件、上限があり、守られていない時間外労働は違法になります。
時間外労働や休日労働、深夜労働には割増賃金の支給が義務付けられています。時間外労働や深夜労働に関しては「1.25倍」、休日労働は「1.35倍」です。賃金は下記の計算方法により算出します。
時間外労働の賃金=1時間当たりの賃金額×割増率×時間数
サービス残業は、労働基準法違反に当たります。たとえ数分の残業でも、一年で考えるとかなりの時間になってしまいます。自主的にサービス残業をする方もいますが、働いた分の賃金はしっかりもらうことが大切です。
介護職で残業時間に悩んだときの解決方法には、以下の4つがあります。
それぞれの詳細を見ていきましょう。
残業時間に悩んだ場合、勇気を出して残業を断る方法があります。残業は上司からの指示や同僚から頼まれることもあるでしょう。断ると上司や同僚との関係性が悪くなり、評価に響く可能性もあり、断りにくいと感じてしまう方も多いです。
断らないで引き受けすぎると「この人に任せればいい」と思われてしまい、残業が増える可能性があります。しかし、残業は違法に当たるケースもあるため、残業のルールを知ったうえで断ることも大切です。
残業が多いと感じるなら、勇気をもって会社と相談するのもひとつの方法です。上司や同僚に相談し、残業を減らす方法がないか話してみると解決策が生まれるかもしれません。
会社の上司は残業の実態に気づいていない場合もあるため、介護現場で起こっている状況を伝えることが大切です。
しかし、会社に相談してみても改善が見られない・対応をしてくれない場合は労働基準監督署に相談するのもひとつの方法です。
自分の仕事の効率や生産性を確認することも大切です。自分がおこなっている作業が、無駄なことや効率よくできていない可能性があります。
例えば、机の上が整理されておらず、書類を探す手間がかかってしまっている、または思いついたものから手を付けてしまうなどが考えられます。
残業がない職場へ転職するのもひとつの方法です。職場によって、残業をする雰囲気がある場合や、残業時間の長さにも違いがあるものです。職場の残業時間が多く、つらい場合は残業がない職場を探し、転職することを考えてみるのもよいでしょう。
介護職は残業が多いと思われがちですが、他産業と比べてみると少ないということが分かりました。しかし、サービス残業をしているケースもあるため、一概に介護職は残業が少ないとはいえません。
残業は自分の努力で減らせる場合もあります。まずは改善できないかを考えてみるとよいでしょう。
しかし、改善が見られない場合は、上司や会社に相談するなど他の対策を試しましょう。それでもだめな場合は、労働基準監督署へ相談したり、転職したりする方法もあります。
介護職で働くなら、自分が働きやすい環境を作ったり、残業の少ない職場を見つけたりすることが大切です。
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