岸田首相が「分配戦略」を発表したことで、介護職の賃上げが期待されています。しかし、実際のところ今後は賃上げが期待できるのか、待遇はどのようになるのか疑問に思っている方は多いのではないでしょうか。
そこで当記事では、岸田首相の分配戦略をもとに賃上げは期待できるのか解説いたします。また、これまでの処遇改善の経緯や今までの給料推移についてもまとめてご紹介いたします。
ここでは、介護職員の賃上げがどのように進められてきたかについてご紹介いたします。具体的には、
それでは順番に解説していきます。
介護職員の賃上げを行うためには、政策によるバックアップが必要です。介護職員の給料は、介護報酬から支払われています。介護報酬は介護保険法によって上限が定められているので、施設は職員の給与を簡単には上げられないのです。
2021年、岸田首相は分配戦略の柱として「介護職や看護師の給与引き上げ」を掲げました。収入の約3%にあたる月額平均9,000円相当を引き上げることを目標とし、2022年より「介護職員等ベースアップ等支援加算」が実施されています。
【参考】厚生労働省 「介護職員の処遇改善に係る加算の概要」(P.3)
介護職の処遇改善は、これまでも実施されてきました。介護人材を確保するために、豊かな経験と高いスキルを持つ介護職員の処遇改善を進めてきたのです。
2017年の介護報酬改定では、月額平均1万円相当にあたる1.14%の介護報酬改定が実施されました。また「介護職員処遇改善加算」を見直し、要件を満たせば賃金がアップする仕組みを作ったのです。
2019年には「特定処遇改善加算」が新たに設定されました。これは勤続年数10年以上の介護福祉士について、⽉額平均8万円相当の処遇改善を算定根拠とした政策です。また「特定処遇改善加算」は、介護職以外の処遇改善にも柔軟に充当できます。
【参考】
厚生労働省 「平成29年度介護報酬改定の概要」
厚生労働省 「2019年度介護報酬改定について」
2021年、介護職員の給与は316,610円でした。2015年の280,250円と比較すると、データ上では6年間で約3万6千円上昇しています。年収ベースでは、約43万円のアップです。
政府による介護人材確保の政策によって、介護職員の給与は継続して上昇していることが分かります。
給与 | 年収(給与×12ヶ月) | 差異 | |
2015年 | 280,250円 | 3,363,000円 |
6年間で36,360円アップしている(年収では436,320円) |
2021年 | 316,610円 | 3,799,320円 |
【参考】
厚生労働省 「平成28年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」(P.9)
厚生労働省 「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」(P.144)
ここでは介護職員の賃上げ効果についてご紹介いたします。介護人材確保のため、政府はさまざまな賃金アップの政策を実施してきました。しかし、介護職のお金に対する不安は、簡単には払拭できないようです。ここでは、
について詳しく解説していきます。
令和元年、厚生労働省は「介護職員の悩み」についてアンケート調査を実施しました。介護職員の悩みトップ3は以下のとおりです。
調査によれば、約40%もの介護職員がお金の不安を抱えていることになります。ちなみに、平成27年度の調査では「賃金が低い」と回答したのは42.3%であり、やや改善傾向にありました。これは、政策による賃金アップが影響しているものと考えられます。
【参考】厚生労働省 「介護労働の現状と 介護雇用管理改善等計画について」(P.15)
介護職の賃上げ政策は継続して実施されており、一定の効果が見られます。しかし現在、日本では急激な物価高が国民の生活を圧迫しています。総務省によれば、令和5年5月の物価は、前年同月よりも3.2%上昇しているのです。
介護報酬は介護保険法で定められているため、各施設は利用料を値上げできません。つまり政府による賃上げ政策の効果を、物価上昇が打ち消す形になっています。
【参考】総務省統計局 「2020年基準 消費者物価指数 全国2023年5月分」
令和5年以降も賃上げ対策は継続される見込みと考えられています。現在、介護施設は電気代やガス代の高騰に加えてコロナウイルスの影響により、厳しい状況に追い込まれています。不安定な経営状況により、各施設が独自に介護職の賃上げを行うのは厳しい状況です。
そこで令和5年5月、公益社団法⼈全国⽼⼈保健施設協会などの全国サービス事業所団体は、介護職の賃上げを求める要望書を岸田文雄首相に提出しました。岸田首相は分配戦略の柱として「介護職や看護師の給与引き上げ」を掲げており、今後も介護職の賃上げ政策は継続されるものと予想されます。
政策による賃金アップに加えて、自分自身で給料が上がるように行動するのも重要です。ここでは、介護職員の給料を上げる方法についてご紹介いたします。具体的には、
それでは順番に解説していきます。
同じ法人に継続して勤務することで、昇給が期待できます。また、勤務年数を重ねることで介護スキルを積み重ねることも可能です。そして、現場リーダーや管理職などに抜擢されることも珍しくありません。リーダーや管理職手当が支給されれば、給料アップにもつながります。
また職場内外で実施される研修は、スキルを向上させるチャンスです。専門的な技術を身に付けるために、研修へは積極的に参加してみましょう。
介護に関する資格を取得すれば、資格手当が支給されます。資格の取得は自分のスキルや知識を高め、結果としてケアの質を向上させることにもつながるのです。介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修などを経て、国家資格である介護福祉士を受験するのが一般的な流れです。そしてさらなるスキルアップを目指して、ケアマネジャーや社会福祉士を目指す人もいます。
以下は資格別の平均給与です。参考にしてください。
保有資格 | 平均給与(円) | 平均勤続年数(年) |
介護福祉士 | 331,080 | 9.6 |
社会福祉士 | 350,120 | 8.3 |
介護支援専門員(ケアマネジャー) | 376,770 | 12.9 |
実務者研修 | 302,430 | 6.8 |
介護職員初任者研修 | 300,240 | 8.1 |
保有資格なし | 268,680 | 5.4 |
【参考】厚生労働省 「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」(P.157)
この調査では、介護支援専門員の給与が最も高くなっています。これは勤続年数が長いことが関係していると考えられます。また、施設長や管理者は介護支援専門員を兼務していることも多いため、役職手当が支給されていることも原因の1つと思われます。
思い切って希望条件に合う施設へ転職することも重要です。定期昇給や資格手当だけでは、希望する待遇に届かない場合も考えられます。施設によって給与水準や福利厚生はさまざまです。
特に介護職員としての経験や介護福祉士などの資格をお持ちの方であれば、高い需要があります。場合によっては、現在の職場よりも就業条件がよい施設もあるでしょう。転職情報を収集し、自身の経験や資格を活かせる職場を探すことも重要なのです。
今回は、介護職の賃上げについてご紹介いたしました。介護職の賃上げは、これまでも段階的に実施されてきた経緯があります。加えて岸田首相が分配戦略を発表したことで、一定の効果も見られていました。
しかし急激な物価の上昇により、国民の生活は圧迫されています。介護職員の給与は介護報酬によって定められているため、物価上昇に合わせて値上げできないのが現状です。政府は介護人材の確保を重要視しており、今後も介護職の賃上げ政策を継続していくものと考えられています。
資格取得など、自身の努力によって給与アップを目指す姿勢も重要です。思い切って希望条件に合う施設へ転職する方法もあります。この記事を参考に、賃上げや給与アップについての理解を深めていただければ幸いです。
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