介護は身体的な支援だけでなく、心理的なサポートも非常に重要と考えられています。その中でも、「尊厳の保持」は特に重要視されている課題の1つです。
尊厳の保持とは、一人ひとりの個性や価値を尊重し、自己決定の権利を守り、人としての尊厳を損なわないように支援することを指します。介護の現場における尊厳の保持は、利用者の方に対する尊重と、個々のニーズに応じた適切なケアを提供することにつながります。
介護保険法では、高齢者が「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにする」ことを目指しています。これは、高齢者の意志や選択を尊重し、自分らしい生活を続けられるようにすること、そして自尊心や人間としての価値や役割を保つことです。
具体的には、利用者の方の意向を尊重した上で、適切な介護サービスを提供することが求められます。さらに、個々の利用者の方の生活・経験から生まれる価値観や習慣を理解し、尊重することが重要とされています。
尊厳の保持が重要視される理由は、それが利用者の方の心の健康と幸福感に深く関わるからです。尊厳を保つことで、利用者の方は自尊心を保ち、自己肯定感を持つことができます。これは、介護が必要となった高齢者の健康を保つために重要な要素です。
また、尊厳の保持は介護サービスの質を高め、利用者の方の満足度を向上させるためにも必要です。
利用者の方自身がその人らしい生活を営むためのサポートを受け、自己決定を尊重されることで、介護サービスへの満足度は大幅に高まります。さらに、尊厳の保持は介護職員自身の職務満足度にも影響を与えるでしょう。
自分の行動が利用者の方の生活を向上させ、その尊厳を保つことに影響していると感じることで、介護職員の仕事の価値や意義が高まります。尊厳の保持は、介護の現場における利用者の方の心身の健康、介護サービスの質、介護職員の職務満足度に深く関わる重要なポイントです。
ここでは、「尊厳」を守るためには具体的にどのような対応が必要なのか、それぞれ見ていきましょう。
「ノーマライゼーション」は、「普通の生活」を送る権利をすべての人が持つという理念です。介護の現場においては、この理念を受け入れ、介護の提供方法を考えることが重要になります。
つまり、介護が必要な人も健常者と同じく、1人の人間として尊重され、可能な限り自立した生活を送ることができるようにサポートすることが求められます。
利用者の方の尊厳を守るために、絶対に避けなければならないのが虐待や身体拘束です。虐待や身体拘束は利用者の方の人権を侵害する行為であり、絶対に許されるものではありません。
もし、利用者の方に行動心理症状(認知症による理解が難しい行動など)が見られる場合でも、その背景や原因を理解し、適切な対応を行うことが重要です。専門職間の連携も必要となる場合もあります。
尊厳を守るためには、日々の接遇においてもマナーを守ることが重要です。これには、言葉遣い・態度・プライバシーの尊重などが含まれます。
具体的には、親しみを込めた丁寧な言葉遣いで接する、適切な距離感を保つ、個人的な話題を適切に扱うなどがあります。これらは、利用者の方を1人の人間として尊重し、その尊厳を守るために重要な対応です。
尊厳を守ることは、人が自尊心と尊敬を維持し、幸せで充実した生活を送るために必要不可欠です。介護の現場では、尊厳を保つために3つの側面を考慮することが重要になります。
介護を必要とする人々の身体的な尊厳を保つためには、それぞれのニーズと制約を理解し、尊重することが大切です。
身体的なニーズに対する配慮は、食事・睡眠・運動などの基本的な日常活動を含みます。それぞれの人がそれらの活動を可能な限り自己決定し、自立して行うことを支援することが重要です。また、痛みの管理や適切な医療的ケアの提供も身体の尊厳を守ります。
精神的な尊厳を保つためには、個人の感情・価値観・信念を理解し尊重することが大切です。
これには、その人の文化・信仰・性格・好みなどを認め、尊重することが含まれます。利用者の方が自分の選択を尊重され、自己表現できる環境を提供することで、その人の尊厳が保たれます。また、優しさや共感も精神的な尊厳を保つ上で大切です。
社会的な尊厳を保つためには、個々の利用者の方が社会的な関係を維持し、活動的な役割を持つことへの支援が大切です。
これには、利用者の方が社会的なイベントやアクティビティに参加する機会を提供すること、また家族や友人との関係を維持する手助けをすることが含まれます。利用者の方が自分の社会的なつながりを保つことができれば、その人の尊厳が保たれます。
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介護には、利用者の方の尊厳を守りながら、その生活の質を高めることを目指す原則があります。
具体的には、「生活の継続性」「自己決定の尊重」「残存能力の活用」の3つが主な柱となります。各原則について詳しく見ていきましょう。
高齢者が介護を必要とするようになったとしても、その人がこれまでに築き上げてきた生活をできるだけ続けられるよう支援することが求められます。これには、習慣や生活リズム、住み慣れた環境の維持などが含まれます。
そのために、介護サービスでは個々のニーズやライフスタイルに対応した多様な支援を提供し、自宅での生活を継続するためのサポートをすることが大切です。
利用者の方の尊厳を守るためには、その人自身の意志や価値観を尊重することが不可欠です。
これは、日常生活の小さな決定から大きな医療や介護に関する選択まで、さまざまな場面で実践される必要があります。介護職員は、利用者の方が自分の意志を表現し、自己決定を行うことを支援し、その選択を尊重することが求められます。
高齢者には、年齢や健康状態により制約はあるかもしれませんが、それでも活用できる能力が必ずあります。この「残存能力」を見つけ出し、利用者の方が自身の能力を最大限に活用できるようサポートすることで、その人の生活の質と自尊心を高めることができます。
具体的には、日常生活の一部を自分で行うことを支援し、趣味や特技を活かす機会を提供するなどが考えられるでしょう。
これらの原則を介護の現場で実践することで、利用者の方の尊厳を守りながら、よりよいサービスを提供することができます。介護職員は、これらの原則を日々の業務に活かすことが求められます。
介護の現場では、高齢者の尊厳を保持することが強調されることが多いですが、実は介護者自身の尊厳も非常に重要な要素です。
介護者も1人の人間であり、感情やプライバシーを尊重される権利があります。介護職は困難な状況に直面することも多く、精神的・身体的なストレスが大きい職業と言えます。
そのため、介護者の尊厳を尊重することは、仕事のやりがいを感じ、持続的に高品質なケアを提供するためにも重要なポイントです。これらを満たすためには、職場環境・教育体制・報酬・福利厚生・良好なコミュニケーションなどの改善が求められます。
介護の尊厳の保持は、利用者の方だけでなく介護職員にとっても重要な要素となります。尊厳の保持の三原則は、高齢者に対する質の高い介護を提供する上で欠かせない考え方です。
一方で、介護職員自身の尊厳を尊重し、サポートすることも大切です。これにより、介護職員が自身の仕事に誇りを持ち、持続的にサービスを提供するための活力が生まれます。
介護の現場での尊厳の保持は、よりよいケアを提供し、高齢者だけでなく介護職員の満足度を高めるための重要なポイントとなります。そのため、これらの原則と視点を持つことは、すべての介護職員にとって重要なスキルと言えるでしょう。
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