介護施設のすべてを統括・管理しているのが「施設長」です。施設長の管理する内容は、利用者・従業員・施設運営・収支など多岐にわたります。
本記事では、施設長の仕事内容や給与、施設長になるための条件・ステップなどについて解説します。
施設長は施設の管理者であり、管理者の責務は、『介護保険法に基づき指定介護老人福祉施設の設備及び運営に関する基準等を定める条例』第27条において、「従業員の管理の他、業務の実施状況の把握、その他の管理を一元的に行う」と定義されています。具体的なマネジメントについては、以下のことがあげられます。
以上が、管理者の主な業務ですが、施設長がすべて直接行うのではなく、あくまで正しく運営ができているかの最終確認が施設長であり、最高責任者といえます。
介護労働安定センターが実施している「介護労働実態調査(平成30年度)」において全国の平均が発表されています。
【平均賃金】
正規職員 | 234,873円 |
施設長・管理者 | 359,873円 |
【平均賞与】
正規職員 | 598,379円 |
施設長・管理者 | 711,426円 |
最高責任者としての責務は重く、給与・賞与面に反映されています。上記の金額はあくまで全国の平均値なので、地域によってその差は広がります。
施設長や管理者になるための条件は施設によって異なります。以下で必要な資格や条件を確認していきます。
資格要件は、基準省令第5条1項に以下のように規定されています。
上記のいずれかの要件を満たす必要があります。また社会福祉主事の資格要件については、任用資格であるため、以下のように定められています。
【社会福祉主事の資格要件】
都道府県によっては、実情に合わせて、介護支援専門員や介護福祉士などを独自に資格要件に加えているところがあります。これらはマネジメント力が問われる資格でもあります。施設長や管理者を目指すのであれば、目指すべき資格なので勉強して損はありません。
介護保険法第95条により「介護老人保健施設の開設者は、都道府県知事の承認を受けた医師に当該介護老人保健施設を管理させなければならない」と定められており、施設長は原則、医師が行っています。
その他、介護療養型医療施設や介護医療院についても、継続的な医療行為が必要な介護者のための施設なので、管理者は医師です。
2005年の介護保険改正から始まった地域密着型サービスです。これら2つの事業所では、管理者やホーム長と呼ばれることが多いです。以下の要件、両方を満たす必要があります。
介護施設や在宅サービスの介護員として認知症高齢者の介護に3年以上従事した経験を持つ者
厚生労働大臣が定める「認知症対応型サービス事業者管理者研修」を修了した者
また施設の規模が小さいため、管理者であっても介護を担当することがあります。そのため、介護福祉士や介護支援専門員といった資格を持っている人が管理者を行っているケースが多いです。
過去には、管理者の資格要件はありませんでしたが、平成30年度の介護報酬改定により、主任ケアマネジャーであることが管理者の要件となりました。質の高いマネジメントの推進が目的です。
ただし主任ケアマネジャーになるためには、ケアマネジャーとして5年以上の実務経験が必要です。現在、令和3年3月31日までは経過措置期間として主任ケアマネジャーの要件は緩和されています。主任ケアマネジャーの研修は年1回しかないため、経過措置延長が課題です。
有料老人ホームやデイサービス、訪問介護事業所などの責任者は、資格要件が定められていません。ただし、施設を管理する上で、介護福祉士や社会福祉士、介護支援専門員といった資格保有者が優先される傾向にあります。サービス全体を把握するためには、介護の現場の経験が役に立つからです。
施設長・管理者の役割は円滑にサービスが運営できているかを把握することです。現場では各職種が連携しながら1人の利用者を支えているので、自分自身が介護の経験を持つことは強みになります。
ケアマネージャーの業務は利用者に対するマネジメントですが、施設長・管理者は、施設全体のマネジメントが主な業務です。もちろん、ケアマネージャーの資格は大いに役立ちます。
施設全体をマネジメントしていくために、何が必要なのか、施設の強み、弱みをアセスメントする必要があります。これはサービスだけでなく、職員に対しても同様のことがいえます。
一方で利用者だけを大切にしていてはよい経営はできません。会社には多くの従業員がいます。施設全体を管理する立場として「利用者(お客)、人(従業員)、モノ」のバランスが重要となります。
社会福祉士は国家資格です。社会福祉士は実務経験だけで受験資格を得ることが難しいため、働きながらの取得は時間的にも金銭的にも負担となる部分はあります。一方で、社会福祉士は相談援助技術やソーシャルワークの基礎が経験できます。自分で自分の思いを伝えることが難しい利用者が多いので、面接技法や心理学的アプローチのスキルがあれば利用者の理解に深まります。マネジメントの観点から考えても重要な資格です。
厚生労働省による資格要件には直接入っていませんが、都道府県によっては資格要件として認められていることがあります。介護施設ではたくさんの介護福祉士が働いています。介護現場の経験が長いと利用者のケアもよくわかり、また介護職員の悩みも知ることができます。
介護福祉士については、「介護福祉士とは?資格概要、仕事内容、取得方法などを解説 」でも詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
特にグループホームや小規模多機能居宅介護事業所では、規模が小さいため、スタッフの配置状況によっては、管理者でも現場勤務を行うこともあります。デイサービスの場合、管理者が現場職員と兼務していることも多いため、資格を取得していることは役立ちます。
有料老人ホームやデイサービスなどは最初から管理職を募集する事業所もあります。しかし現場のことをわからないまま管理職に就いても、周りの信頼を得ることが難しいでしょう。以下では施設長になるための段階をご紹介いたします。
施設のスタッフの中で一番人数が多い職種は介護職です。介護職の実務経験があれば、介護現場の状況を把握しやすくなるでしょう。
利用者や従業員のマネジメントでは、現場の状況がわからないとお互いに身構えてしまい、信頼関係を築くことが難しくなります。また指導する立場や事業を運営する側になったときに両方の気持ちがわかり、職員の思いを汲み取れる施設長・管理者になれるでしょう。
介護職は無資格、未経験から始められる仕事ですが、キャリアアップのためには資格取得が必要です。施設長・管理者は、資格要件がない事業所もありますが、キャリアを積むために資格取得は欠かせません。
最近では福祉以外の業界で培ったマネジメント力で活躍している人も多いです。介護現場のキャリアアップとして、介護福祉士やケアマネジャーが位置づけられています。資格を取得しているからこそ、理解できる強みがあります。キャリアアップとして、ぜひ資格取得を目指しましょう。
現場の経験が長くても、施設長になるための要件が満たされなければ、その職に就くことはできません。グループホームや小規模多機能型居宅介護事業所では、認知症の介護経験の他、厚生労働大臣が定める「認知症対応型サービス事業者管理者研修」の修了が義務づけられています。この研修は都道府県によって開催時期や開催回数の違いがあるため、早めの受講が必要です。
その他、社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーは年1回しか資格試験がありません。それぞれ受験するためには実務経験が必要になるので、先に目標を立てて準備をすすめておきましょう。試験を受けたいと思っていても試験申し込み期間を過ぎてしまうと、翌年まで待つことになってしまいます。3年後、5年後、10年後の自分のキャリア計画を立てて、手続きを忘れることがないように気をつけましょう。
施設長や管理者は施設全体のマネジメント力が問われ、非常に責任のある仕事です。一方で、次の管理職を育てる責務もあります。直接指導をしたくなるかもしれませんが、主任や現場リーダーに任せたほうが、業務が円滑にまわることもあります。
また主任や現場リーダーは職員との関係がうまくいかず悩んでしまうこともあります。そんなときは全体の責任者として主任や現場リーダーの思いを受け止め、問題が解決できるような働きかけを行いましょう。
自分がすべて手を出してしまっては次を育成できません。待つことの大切さ、また一人ひとりの思いを受け止めて責任者として何ができるのか、自分たちで判断し、解決できれば、チームワークがより強固になるでしょう。
【参考】
厚生労働省「居宅介護支援の管理者要件に係る 経過措置について」
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