実務者研修はキャリアアップを目指す上で欠かせない資格です。本記事では、実務者研修がどんな資格なのか、そして初任者研修との違いを解説します。また資格取得によるメリットや取得方法、合格率についてご紹介いたします。働きながら国家資格である「介護福祉士」を目指す人は3年以上の実務経験に加えて実務者研修修了が必要なのでぜひチェックしてください。
介護福祉士については「介護福祉士とは?資格概要、仕事内容、取得方法などを解説 」で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
国家資格である「介護福祉士」の受験資格を得るために修了が義務づけられている重要な資格です。
介護のキャリアパス制度において、実務者研修は初任者研修のステップアップ資格と位置づけられています。国家資格である介護福祉士を受験する前段階の資格のため、現場ですぐに役立つ介護技術や高度な知識を習得できます。実際に介護キャリアパス制度では介護を2~3年程度経験した職員が目指す資格とされています。
実務者研修は、専門的なカリキュラムを計450時間受講し、専門的な知識の修得を目指しています。介護の資格を持っていない人も受講は可能ですが、免除項目なしの450時間の勉強が必要です。具体的なカリキュラムは以下の通りです。
科目 | 時間数 |
人間の尊厳と自立 | 5時間 |
社会の理解Ⅰ | 5時間 |
社会の理解Ⅱ | 30時間 |
介護の基本Ⅰ | 10時間 |
介護の基本Ⅱ | 20時間 |
コミュニケーション技術 | 20時間 |
生活支援技術Ⅰ | 20時間 |
生活支援技術Ⅱ | 30時間 |
発達と老化の理解Ⅰ | 10時間 |
発達と老化の理解Ⅱ | 20時間 |
認知症の理解Ⅰ | 10時間 |
認知症の理解Ⅱ | 20時間 |
障害の理解Ⅰ | 10時間 |
障害の理解Ⅱ | 20時間 |
こころとからだのしくみⅠ | 20時間 |
こころとからだのしくみⅡ | 60時間 |
介護過程Ⅰ | 20時間 |
介護過程Ⅱ | 25時間 |
介護過程Ⅲ | 45時間 |
医療的ケア | 50時間 |
合計 | 450時間 |
介護の資格を何も所持していない場合は、すべて受講する必要があります。一方で初任者研修、ヘルパー1~3級、介護職員基礎研修のいずれかの資格をあらかじめ取得している場合は免除科目があり、時間数が減ります。例えば、初任者研修またはヘルパー2級の資格を持っている人の場合、450時間のうち130時間免除され、実際に勉強する時間は320時間です。実務研修の医療的ケアは学科と演習が行われます。ただし業務としてたん吸引を行うためには、実地研修を受ける必要があります。学科と演習だけでは実務に就くことができないので注意しましょう。
無資格の場合、実務者研修の受講期間は6カ月程度かかります。一方で資格を所持していると免除される科目があり、受講期間は1~4カ月程度です。例えば、初任者研修修了後、実務者研修を受講する場合、受講期間は3~4カ月程度です。
多くの養成講座では働きながらでも資格取得を目指せるよう無理のない範囲で受講期間が設定されています。しかし勉強を始めたところ、急に長期間受講を休む必要がある、思うように勉強がはかどらないなど、個々の事情が発生することもあるでしょう。予定の受講期間で修得が難しい場合は早めに相談することが大切です。
養成講座によって違いはありますが無資格の場合、約10~15万円程度の受講費用がかかります。しかし資格を所持している場合は免除科目があるため、費用に違いが出ます。例えば初任者研修やヘルパー2級を所持している場合、約8~13万円程度です。
その他、実務者研修は養成校によって「教育訓練給付金制度」の対象になることがあります。ただし誰でも教育訓練給付を受けられるわけではありません。雇用保険に一定期間以上の加入が必要など条件を満たす必要があります。教育訓練給付は、「専門実践教育訓練給付金」と「一般教育訓練給付金」の2種類です。それぞれの教育訓練給付は対象者や給付の割合が異なり、制度を活用すればと金銭的な負担が軽減されます。該当の場合、受講申し込みの前にハローワークの手続きが必要になるので、気をつけましょう。
実務者研修は専門知識と技術の修得のために行われているため、内容の理解ができれば修了証をもらうことができます。また科目ごとにそれぞれ知識が修得できているか確認が行われるため、全体での修了試験はありません。科目ごとの知識が不足している場合は次に進めず、補習授業や追加課題があります。一定の基準をクリアする必要があります。その他、養成講座によって介護技術や医療的ケアは試験や実技試験を行っている場合があります。
養成講座によって期間は異なりますが、通学と通信の両方で資格修得を目指すことができます。多くの養成講座では、通信教育から始まります。テキストやWeb講座にて専門知識を学びます。科目ごとに提出課題があり、知識の修得を確認します。すべてが達成できると、通学教育にて介護技術実践に入ります。通学教育では介護現場で即戦力になれるように介護計画の立案や介護技術の修得を学びます。
実務者研修はより専門的な知識と技術の修得、初任者研修は介護における基礎知識と技術修得を目指している点が特徴です。
介護のキャリアパス制度において初任者研修は経験1年以内の介護職員が修得することを目指しています。一方で実務者研修は専門的な知識と技術の修得を目指して、実務経験2~3年以内の介護職員が受講することが望ましいとされています。実務者研修は初任者研修の上位資格と位置づけられおり、より高度な専門知識や技術を得ることを目的としています。
科目と時間数は以下のような違いがあります。
初任者研修 | 実務者研修 | |
科目 | 9科目 | 20科目 |
時間数 | 320時間 | 450時間 |
初任者研修では基礎を中心に知識と技術の修得が行われます。実務者研修では初任者研修で修得した基礎からさらに高度な知識と技術の修得の他、医療的ケアの科目があります。介護が重度になるにつれ、医療の知識が必要になるからです。
訪問介護事業所ではサービス提供責任者を配置する義務があります。サービス提供責任者の資格要件は実務者研修修了です。サービス提供責任者は、訪問介護事業所において利用者宅での介護サービス提供の他、計画書の作成や利用の調整など管理業務が加わります。実務経験年数に関係なく、実務者研修修了で要件が満たされるため、キャリアの幅が広がります。
実務者研修の受講には費用がかかりますが、得られるメリットは大きいです。
初任者研修の上位資格に位置づけられているため、実務者研修修了の方が資格手当は高い傾向にあります。
平成30年度「介護従事者処遇状況等調査結果の概要」では以下の通りです。
保有資格 | 平均給与額 |
資格なし | 261,600円 |
初任者研修 | 285,610円 |
実務者研修 | 288,060円 |
介護福祉士 | 313,920円 |
平均給与額は、基本給(月額)+手当+一時金(4~9月支給額の1/6)です。毎月の支給額ではありません。上位資格を取得していれば、業務内容は変わらなくても給与アップの可能性があります。
2017年の介護福祉士の国家試験より、3年以上の実務経験と実務者研修修了が義務づけられました。そのため、実務経験が長くても実務者研修を修了していなければ介護福祉士試験を受験ができません。介護福祉士は介護職の資格の中で唯一の国家資格です。介護のキャリアパス制度においても指導者としての役割を担っているため、実務者研修修了後はぜひ介護福祉士を目指しましょう。
重度の要介護者は増加傾向にあり、医療的な知識はますます求められます。入所施設では看護師の数が足りず、一定の研修を受けた介護職員が医師や看護師の指導や連携のもと、たん吸引や経管栄養などの医療ケアを行い、利用者の生活を支えています。実務者研修では医療知識の修得のほか、シュミレーターを使った技術演習が行われています。福祉施設で実際の医療ケアに携わるには実地研修を受ける必要がありますが、知識を修得していることでより医療的な知識は深まります。
多くの介護施設で導入されている介護のキャリアパス制度では、経験年数ごとに資格取得の目標が設定されています。初任者研修修了から始まり、続いて実務者研修修了、そして3年以上の実務経験を得て国家資格である介護福祉士の取得、認定介護福祉士と続きます。実務者研修は、介護福祉士の受験資格を得るために必須の研修です。
また介護福祉士取得後は、5年以上の実務経験を積むことで「介護支援専門員」の受験資格が得られます。介護支援専門員は居宅や施設において利用者のケアマネジメントを主に行います。介護支援専門員になると直接介護をする機会は少なくなりますが、これまでの経験を活かして利用者や家族の目線で悩みを共有し、マネジメント業務に携わることになります。
働きながら資格を修得することはとても大変です。また家庭の状況によって時間の確保が難しい人もいるでしょう。しかし資格取得は専門知識と技術が修得でき、修得できた知識や技術をもってより質の高い介護の提供が可能になります。
実務者研修は介護職として働き続ける人にとって大きなステップアップです。介護職として3年後、5年後、10年後のキャリアプランを考えると、ぜひ取得したい資格です。実務者研修を修了することで、仕事の幅が広がり、収入が上がるだけではなく、先のキャリアアップの道も開けるでしょう。
介護職は3K(きつい、汚い、危険)と言われ続けてきた背景はありますが、景気に左右されません。少子高齢化が進む日本において、介護は誰にでも身近な問題となることが考えられ、介護職の重要度はますます大きくなるでしょう。高度な知識と介護技術を身につけ、利用者の生活を守っていきましょう。
【参考】
・厚生労働省「介護職員処遇改善加算」
・厚生労働省「介護職員等特定処遇改善加算」
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