介護ロボットは、介護施設や事業所に導入することで、職員の負担軽減につながることが期待されている介護機器です。しかし、実際に現場で働く介護士の方でも、種類や性能についてはよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、介護現場で働く介護士の方に向け、介護ロボットの定義や導入のための支援事業、メリット・デメリットについて解説します。介護ロボットを現場で活用している事例についてもご紹介するので、ぜひ参考になさってください。
「介護ロボットってなに?」と改めて聞かれると、具体的にイメージできないという方も多いのではないでしょうか。中には、人型をしたロボットが高齢者と会話をしている姿を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。
厚生労働省では、「情報を感知」「判断し」「動作する」3つの要素を持つ知能化した機械システムを「ロボット」に位置付けています。その中でも、利用者の方の自立支援や介護者の負担軽減に役立つロボットが「介護ロボット」と呼ばれています。
高齢化にともない介護を必要とする人が増える一方、介護現場では人手不足が深刻な問題となっています。厚生労働省の調査によると、2025年に必要となる介護職員の数は約245万人。毎年6万人程度の人材を確保しなければ追い付かない状況となっているのです。
【参考】厚生労働省「第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」
そこで平成25年に政府が打ち出したのが「ロボット介護機器開発5か年計画」。介護ロボットによる高齢者の自立支援と介護者の負担軽減を目標に、「ロボット技術の介護利用における重点分野」も策定されました。
平成29年には現場のニーズに合わせ2度目の改定を実施。現在は以下の6つが介護ロボットの重点分野として挙げられています。
高齢者がベッドから立ち上がったり、車いすへと移乗する際に行う介助。介護者が体に装着し身体的負担を軽減するロボットの他、高齢者を直接抱え上げる性能を持つロボットなどが移乗介助の対象となります。
高齢者の屋外または屋内の安全な移動を支援するロボット。歩行を支える歩行器や、高齢者の動きを察知し転倒を予防する装着型の支援機器が挙げられます。
排泄物を流したり密閉することで、室内ににおいが広がることを防ぐロボットです。排泄を予測し、適切なタイミングを知らせてくれる装着型の機器もあります。また、トイレ内での衣類の着脱から排泄までの動作を支援するロボットも開発されています。
高齢者の動きをセンサーで遠隔に知らせる介護施設型のロボットで、自宅での転倒などのトラブルを知らせる在宅介護型のロボットがあります。また、高齢者とコミュニケーションを図る生活支援型のロボットも開発されています。
高齢者の安全な入浴を実現するため、浴槽に出入りする際に利用するロボットです。高齢者ひとり、またはひとりの介助者の支援のもとで使用できることが定義のひとつとなります。
ロボット技術を用い介護業務に関する情報を収集・蓄積し、高齢者に必要な支援に活用するための機器です。介護記録システムや、ケアプランの作成などに役立てられます。
介護ロボットを導入することで生まれる一番のメリットは、介護者の身体的・精神的負担が軽減されることです。
ベッドと車いすへの移乗、入浴介助や排泄介助などは中腰の姿勢で行うことが多く、介護者の身体的負担の大きな要因となります。厚生労働省の調査によると、介護職員全体の約30%が腰痛や体力不安の悩みを抱えているほどです。
【参考】厚生労働省「介護労働の現状」
高齢者の移乗を支援するロボットは、身体的負担を大きく軽減してくれます。移乗には危険も伴うため、ロボットで安全に高齢者を支援できることは、介護者の精神的負担の軽減にもつながるでしょう。
また、見守り型のロボットは、職員の少ない夜間帯に活躍してくれます。遠隔でも高齢者の動きを察知し、転倒や徘徊のリスクを回避することができるのです。
さらに、介護ロボットのメリットは介護者側だけにあるわけではありません。高齢者の自立支援を目的としている介護ロボットは、高齢者自身の精神的負担も大きく軽減するメリットがあるのです。
特に、移動を支援する介護ロボットは高齢者の活動の幅を広げるため、身体機能の向上が期待されます。介護ロボットの支援によって自分で排泄や入浴ができることは、高齢者の自立心を大きく促すものとなるでしょう。
高齢者と介護者に大きなメリットをもたらす介護ロボットですが、その普及率は介護施設全体の約3割にとどまっています。一方、自分の親族等を介護する側になった場合に介護ロボットを利用したいかという問いに対しては、全体の半数近くが「利用を検討してもよい」と解答しているのです。
【参考】厚生労働省「介護ロボットの開発と普及のための取り組み」
このギャップの要因であり、介護ロボットのデメリットかつ課題ともいえる問題が以下の3点となります。
これらの問題を解決することが、介護ロボットの普及、ひいては高齢者の自立と介護者の負担軽減につながると言えるでしょう。
開発に費用のかかる介護ロボットを導入するためには、機器の購入またはレンタル費用、維持費など一定のコストが必要となります。厚生労働省による調査でも、施設全体の半数近くが「導入する予算がない」と回答しています。
【参考】厚生労働省「介護ロボットの開発と普及のための取り組み」
費用面の問題を解決し介護ロボットを普及させるため、各自治体では介護ロボット導入支援事業が実施されています。
介護ロボット導入支援事業とは、介護ロボットを導入する事業所に対し、自治体が一定の補助金を支給する制度です。対象は介護者の負担軽減のために使用する介護ロボットに定められており、申請のためには計画書を各自治体に提出する必要があります。
補助額は1機器につき30万円。60万円未満の場合は価格の半分が支給額の上限となります。支給回数はひとつの計画につき1回のみとなるのでご注意ください。
介護ロボットを安心安全に利用するためには、操作方法を適切に理解しておく必要があります。しかし、人手不足で日々の業務に追われる介護現場では、介護ロボットの機能の周知や操作性の難しさが導入のハードルのひとつとなっています。
移乗や移動用の介護ロボットは大型のものもあり、一定のスペースが必要になることも課題のひとつと言えるでしょう。
直接高齢者の身体に触れる介助には、人の複雑な動きが必要とされる場合があります。認知症患者を介護する場面では、繊細な心の動きを理解することも必要です。
しかし、現在の介護ロボットは人と全く同じ動作ができるわけではなく、介護現場からは「ケアに介護ロボットそれ自体を活用することに違和感を覚える」という声もあがっています。同じように介護現場の実態に沿ったロボットがないという声もあり、現場のニーズに沿ったさらなる開発が必要であると言えるでしょう。
厚生労働省「介護ロボットの開発と普及のための取り組み」
ここからは、商品化された介護ロボットが現場でどのように活用されるのか、厚生労働省の使用貸出事業の事例を参考に3つのパターンをご紹介いたします。年々進化する介護ロボットの種類、導入した施設の声などぜひ参考にしてください。
【参考】厚生労働省「介護ロボット導入活用実例集2019」
2人以上の介助が必要な利用者の移乗の際、介護者と利用者双方の負担を軽減するロボット。2本のアームを専用シートの下に差し込むことで、利用者の方をお姫様抱っこのように優しく抱き上げることができます。
抱え上げた状態で微調整を行うことで、利用者の方を車いすへと安全に移乗することが可能。今まで2人以上で行っていた移乗介助も1人で行えるのが大きなメリットです。
「気が楽になり身体的な負担も減った」
「ケガのリスクなく安全に移乗介助できるようになった」
「直接身体に触れる必要がないので、体に痛みを抱える利用者側の精神的負担を軽減することができた」
電動ポンプの力で汚物やトイレトペーパーを粉砕。ポータブルトイレの排せつ物を処理する手間を軽減できるロボットです。利用者本人がスイッチひとつで後片付けを終わらせられるため、自立を促すだけでなく、精神的負担を軽減できるというメリットもあります。居室と居間がつながっていることの多い、在宅介護でのニーズも見込まれています。
「ポータブルトイレの洗浄・消毒が不要になった分、入居者に向き合う時間が増えた」
「においが軽減されたため、入居者が居室のドアを開け心も開放的になった」
「排泄を遠慮していた入居者が気兼ねなく水分補給するようになり、熱中症対策につながった」
赤外線LED照射により、利用者の「起床」と「離床」を検知。ナースコールまたは独自無線方式によって情報を通知します。グループホームのように自立歩行できる利用者の方が多く、職員の少ない時間帯でも、全体の動きを把握することができるのが大きなメリットです。
センサーの入ったマットのような従来の感知システムと違い、非接触型であることが利用者に安心感を与えます。
「何かあればすぐ職員が駆けつけてくれるという安心感が、利用者の自立を促進した」
「24時間どこにいても通知音が聞こえるため、利用者から離れていても安心感がある」
「ひとりで多くの業務をこなさなくてはならない明け方でも、効率的に仕事ができるようになった」
介護ロボットは、国をあげて開発と普及が進められている介護機器です。しかし、コストや操作性など解決が必要な課題も多く、全体に普及が進んでいるとは言えない現状でもあります。
一方、介護が必要になった場合には「介護ロボットを利用したい」「利用してほしい」という声が多いのもまた現実。今後、より一層現場のニーズに応じた介護ロボットが開発されることが、将来の介護現場を支えていくことにつながると言えるでしょう。
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