介護の仕事をしながら妊娠した場合、どのように職場に報告すればよいのか、またいつまで働けるのか不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、介護職の方が妊娠した場合にとるべき対応や、育休・産休についての情報をご紹介いたします。
さらに、妊娠初期から安定期まで体の変化に合わせた介護業務や注意点についても解説。介護職に就きながら妊娠をお考えの方、現在妊娠されている方はぜひ参考にしてみてください。
一般企業では、妊娠の報告は安定期に入ってからが多いと言われています。しかし、介護職は利用者の方の体を支えたり緊急時にはとっさに対応したりと、体に負担のかかる業務が多い仕事です。母体と胎児を一番に考えると、早めに職場へ報告し業務内容を調整するのがベストです。
また、介護職は人員不足が蔓延している職種でもあります。勤め先が人手不足の職場であれば、妊娠の報告を躊躇する方もいらっしゃるかもしれません。しかし、職場にとっては早めに報告してもらうことで、産前産後の休業を見込して求人募集したりシフトを調整するなど見通しを立てられるというメリットも生まれるのです。出産予定日や休業の予定とともに、妊娠中または出産後も仕事を続けたいという希望をはっきり伝えておきましょう。
「妊娠したかも?」と思われた場合、多くの方は病院に行く前に妊娠検査薬を使用されるかもしれません。現在市販されている妊娠検査薬の精度は、正しく使用した場合99%。妊娠検査薬で陽性がでれば、ほぼ妊娠していると考えた方がよいでしょう。
しかし、万が一のことを考えた場合、職場への報告は医師の診断を受けてから行うのがベストです。「妊娠のごく初期の段階で報告がためらわれる」という場合には、直属の上司や一緒に業務にあたる同僚に報告し、仕事上の配慮を願い出ましょう。その後の受診で胎児の心拍が確認できたら、あらためて職場に広く周知してもらうという二段階に分けた報告方法も良いでしょう。
妊娠初期はもっとも不安定な時期のため、心身ともに負担をかけないことが大切です。初めての妊娠の場合には、自分の体調の変化やこれからのことに不安をかかえる場合もあるかもしれません。反対に、妊娠出産を経験している場合には「まだこれくらいなら大丈夫」「安定期に入ってから報告しよう」と考えることもあるでしょう。
しかし、妊娠初期はお腹の中で赤ちゃんの消化器官や心臓、手や指が形成される重要な時期。無理をせず、ゆっくりとリラックスした気持ちで過ごすことが大切です。
一方、介護の現場では予測しない事態が起こることも否定できません。妊娠が分かった場合には、なるべく早い段階で上司に報告をするように心がけましょう。
夜勤や身体介護は、妊娠中の体には負担の大きい業務です。介護職に限らず、妊娠中は以下の点に注意しながら生活する必要があります。
重いものを持つ作業は腹圧がかかり、お腹の張りや子宮の筋肉収縮の要因となります。それが原因で、流産や早産を引き起こしてしまう可能性もあるのです。また、不安定な場所に立ったり走るといった行動は、転倒のリスクを高めます。
そのため、妊娠中は力が必要な身体介護、転倒の危険性のある入浴介助、人手が少なく突然のアクシデントに駆け付けなくてはならない夜勤は避ける必要があります。職場によっては、妊娠の報告があった時点でこれらの業務は担当しないよう配慮される場合が多いでしょう。
妊婦が深夜業務の制限、軽易業務への転換を請求することは、労働基準法における母性保護規定で認められています。同じく、これらの請求を理由に事業主が解雇や減給といった不利益な扱いをすることも禁じられています。
妊娠を理由に業務内容を変更することは、法律で守られた労働者の権利だということを忘れずに、安心して事業所に相談をしましょう。
妊娠中は、見守り業務や連絡帳の記入、事務作業など、体に負担の少ない仕事を中心に行いましょう。つわりがひどくない場合には、食事介助も可能でしょう。
中には「ほかの職員は忙しそうにしているのに…」と引け目を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、忙しい職場であるほど、職員の目が行き届かないフロアの見守り業務や事務作業、時間のかかる連絡帳の記入作業などは大切な仕事になります。
また、利用者の方の中には職員に妊婦がいることで笑顔になる方もいます。「妊娠でできないことが多い」とネガティブに考えるのではなく、なるべくリラックスした気持ちで過ごせるように心がけましょう。
お腹の中でひとつの命が育つ妊娠は、母体に大きな変化をもたらします。それぞれの時期の合わせ自分の体をいたわり、周囲に協力してもらいながら介護業務にあたりましょう。
見た目に変化はないものの、体調が急激に変化する時期です。特に、つわりには個人差があり食事介助や排泄介助のにおいに敏感になる場合もあります。つわりがひどい場合には、医師の診断をあおぎ職場へ休暇を申し出ましょう。
安定期と呼ばれる時期で徐々にお腹もふくらんできます。おむつ交換の際には、お腹がつかえるようになるので十分に注意しましょう。
胎児の成長とともにお腹が大きく膨らんできます。日常生活で立ったり横になったりしているだけでも、背中や腰に痛みを感じる場合があります。お腹が大きくなるため胃や膀胱が圧迫され、胸やけしたりトイレが近くなるのもこの時期です。なるべく腹圧をかけないためにも、急にしゃがんだり、力を入れたりする動作をしないように心がけましょう。
妊娠中は、いつもと変わらないと思っていてもいきなり体調が悪くなってしまうこともあります。そのような場合には、休憩時間を延ばしたり回数を増やすなど、職場は適切な対応をしなければなりません。もし職場の不理解から配慮が得られないときには「母性健康管理指導時効連絡カード」を提示しましょう。
妊産婦へ主治医等が行った指導内容を、事業主へ的確に伝えるためのカードです。カードを提示された事業主は記載内容に応じ、男女雇用機会均等法第13条に基づく適切な措置を講じる義務があります。
母子連絡カードには、つわり、貧血、切迫流産といった症状に対する医師からの措置項目が記載されています。勤務時間を短縮したり負担の大きな作業は制限するなど、職場は内容に沿った対応をする必要があるのです。
母子連絡カードは厚生労働省のホームページからダウンロードできるほか、母子健康手帳に添付された様式をコピーすることも可能です。
【参考】厚生労働省「母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について」
厚生労働省では、妊娠23週まで4週に1度であった妊婦検診を、妊娠24~35週には2週間に1度、妊娠36週から出産までは1週間に1度のペースで受けるよう推奨しています。
妊娠中は全期間において体に負担をかけないことが大切ですが、妊娠後期はそれだけ注意が必要になるということなのです。そのため、労働基準法第65条でも「産前6週間(多胎妊娠の場合は14週)以内に出産する予定のものが休業を請求した場合、就業させてはならない」と定められています。
「産休」とは、産前と産後に取得できる休業期間のことです。前述したように、産前休業は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から取得でき、パートやアルバイト、派遣社員や正社員といった雇用形態にかかわらず、すべての女性が対象となります。
また、産後休業の期間は出産の翌日から数えて8週間となります。本人が請求し医師が認めた場合のみ、産後6週間を過ぎたあたりから就業することも可能です。産前休業が本人からの申請制であるのに対し、産後休業は申請の有無にかかわらず取得するように定められたもの。それだけ出産は女性の体への負担は大きく、休業期間が必要なものであるといえるでしょう。
育児休業(以下、育休)は、1歳に満たない子どもを養育する男女労働者が会社に申し出ることにより、子どもが1歳になるまで休業できる制度です。女性だけでなく男性も取得できること、取得にはいくつかの要件が定められていることが産休との大きな違いとなります。育児・介護休業法では、育休を取得するための条件は以下のように定められています。
日々雇用であったり雇用期間が1年未満、週の所定労働日数が2日以下の場合、育児休業は取得できません。
また、平成29年10月1日から、保育所等に入れないなどの事情がある場合には、最長で2歳まで育児休業が取得できるようになりました。産休・育休中は社会保険料が免除されるメリットもあるため、妊娠が分かったら休業中のことについても検討するようにしましょう。
介護職で働きながら妊娠が分かった場合、早めに職場に報告し、周知してもらうことが大切です。妊娠中は母体に大きな変化が生まれるため、初期、後期に関わらず働き方に配慮する必要があります。
特に、介護職は身体的な負担が多い仕事。必要に応じて業務内容を変えていかなければいけません。働く女性を支援するため、現在は労働基準法をはじめ、さまざまな法律が改定されています。それらの制度を理解しつつ、周囲の協力を得ながらできる業務を続けることが働きやすい環境づくりにもつながっていくでしょう。
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